トラスツズマブ デルクステカンTrastuzumab Deruxtecan(旧名 T-Dxd、開発コード:DS-8201)はトラスズマブとトポイソメラーゼI阻害剤デルクステカンの複合体であり、デルクステカンは細胞内で細胞死を引き起こす(抗体薬物複合体(antibody drug conjugate, ADC):T-DM1、DS-8201a)。構造式は図1。トラスズマブ部分(図のmAb)はHER2に結合して情報伝達系を阻害、デルクステカンのトポイソメラーゼ I 阻害剤は細胞内に取り込まれて細胞死を誘導する。
極初期の臨床成績は以前に書いたが(抗体薬物複合体の臨床試験:T-DM1 、DS-8201a)、標準治療に抵抗性を示す転移性 HER2 陽性 NSCLC 患者に対する第 2 相試験の結果が良好で、2022年8月11日にFDAの承認が降りている。
91 症例の試験で、観察期間の中央値は13.1.1ヵ月(95%信頼区間 0.7−29.1)、奏効率は 55%(95%信頼区間 44−65)、奏効期間の中央値は 9.3ヵ月(95%信頼区間 5.7−14.7)であった。無増悪生存期間の中央値は 8.2 ヵ月(95%信頼区間 6.0−11.9)、全生存期間の中央値は 17.8 ヵ月(95%信頼区間 13.8−22.1)であった。有害事象はこれまでの試験で認められたものとおおむね一致、グレード 3 以上の薬剤関連有害事象は患者の 46%に発現、もっとも多かったのは好中球減少(19%)であった.薬剤関連と判定された間質性肺疾患が患者の 26%に発現し、そのうち2 例は死亡した。薬剤効果はさまざまな HER2 変異サブタイプで認められ,HER2 発現が検出不能であった患者や HER2 増幅がみられなかった患者においても認められた。コンパニオン診断薬はOncomine Dx Target Testである。
2次治療以降の患者で、奏効率55%など有効な結果が得られているので、多分一次治療から用いても効果があるだろう、と思われる。ただし、最近はこの程度の臨床試験でどんどん承認されていっているが、single armである点は注意が必要だろう。
薬剤メカニズムの観点から考えて、HER2変異がなくても効果があるのではないか、という疑問が湧く。すなわちトポイソメラーゼ阻害剤の効果が中心ならトラスズマブ部分は薬剤デリバリーの役割が中心なら、変異のないHER2もターゲットになり得る可能性がある。臨床試験はsingle armなので、こ比較試験をしてこの可能性を調べるべきではないか。