米国国立がん研究所(NCI)は、自身の治験支援プログラムであるCancer Therapy Evaluation Program、CTEPで2000年から2019年に行われた固形癌の第I相臨床試験の患者データを分析し経時的変化を明らかにした。
まず、重要な点はこれは公的機関が支援した固形癌の第I相臨床試験である点である。血液疾患については別個分析をしていて奏効率の改善を報告している。そして企業治験ではない、という点である。第I相臨床試験の多くは企業出資の新薬あるいは新しいプロトコールに対するものなので、第I相臨床試験の一部分の分析である。
解析したプロトコール総数は465で、登録患者数13847人、使用した薬剤は261個で、単剤投与が144プロトコール(31%)だった。全期間を通しての治療関連死は0.7%(95%信頼区間0.5−0.8)。期間を2000−2005年、2006−2012年、2013−1019年の3期に分けて分析しているが、その期間治療関連死の頻度には変化はなかった(p=0.52)。治療死のリスクは8.0%(7.6−8.5)。グレード3,4の有害事象では血液系が最も多い:好中球減少2336人(16.9%),リンパ球減少1230人(8.9%)、貧血894人(6.5%)、血小板減少979人(7.1%)。奏効率は全期間で1.2%(11.5−12.8;9325人中1133人)、CRは2.7%(2.4−3.0;9325人中249人)だった。複合化学療法の奏効率が15.8%(15−16.8)なのに対し単剤は3.5%(2.8−4.2)だった。経時変化だが、奏効率と完全寛解率は2000−2005年は9.6%(8.7−10.6)と2.5%(2.0−3.0)、20013−2019年は18.0%(15.7−20.5)と4.3%(3.2−5.7)といづれも大幅な改善があった。膀胱癌、大腸癌、腎臓癌、卵巣癌の血管新生阻害剤を用いた試験は奏効率が高い。DNA損傷修復阻害剤は卵巣癌と膵癌で高い奏効率を示した。経時的に奏効率が良くなった疾患は膀胱癌、乳癌、腎癌、メラノーマで、膵癌と大腸癌は低いままだった。
奏効率改善の原因に関するデータは提示されていないが、discussionの部分で血管新生阻害剤、DNA損傷修復阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤を用いた試験が経時的に増加している、との記載があった。奏効率改善の主な理由は使用薬剤の違いだ、と思われる。なお、最も多い薬剤は化学療法剤で、その傾向はどの時期でも同じである。
文献
Chihara, D., Lin, R., Flowers, C.R., Finnigan, S.R. et al. Early drug development in solid tumours: analysis of National Cancer Institute-sponsored phase 1 trials. Lancet 2022 400 512-521. DOI:10.1016/S0140-6736(22)01390-3