精密医療電脳書

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ASCO2022概観

米国臨床腫瘍学会年会American Society of Clinical Oncology (ASCO) Annual Meeting は毎年6月初めにシカゴのマコーミック・プレース(MaCormik Place)で行われる癌に関する世界最大の学会だ。普通の学会は研究者の発表とコミュニケーションの場だが、臨床系の学会は医師が実地臨床に役立つ知識を得るのが目的になっている。ASCO annual meetingには、世界中の各国各地域の指導的な医師が最先端の癌医療について知識を仕入れ、そして自身の現場へ帰っていく。私は患者は見ないので一般の参加者とは事情が異なり、研究上この分野の知識が必要なため、10年以上毎年来ていた。1週間弱シカゴに滞在するだけで、効率よく知識を更新できる。

 

2020年度は新型コロナのため急遽シカゴでの開催は中止で、オンラインの資料閲覧のみとなり参加費は全額返却であった。2021年から学会参加(in-person)とオンライン(on-line)から選択できるようになったが、参加費はin-person + on-lineで950ドル、on-lineのみで760ドルである。私は早期割引で、on-lineのみ540ドルだった。オンラインでは、ライブの他、ライブから6−12時間経過するとオンデマンド配信が始まる。今年のミーティングでは22時から早朝のセッションを23時30分ころまで聴いた後就寝、残りのセッションは翌日オンデマンドで視聴した。

 

私の視点からは、目立ったのは、抗体薬だ。抗体薬物複合体の本格的臨床試験の結果が出始めている。またbispecific antibody(一つの分子で2つのエピトープを認識する抗体薬)についてもチロシンキナーゼ阻害剤(amivantamab)以外に、PD-1とCTLA-4の2つの免疫チェックポイントを1分子で阻害する免疫チェックポイント阻害剤の臨床データの発表があった。

 

リキッドバイオプシー(血中腫瘍DNA)については、応用範囲が大体決まってきた様子である。薬剤選択のための変異検出と術後の残存病変(minimum residual disease, MRD)の検出だが、変異検出に関してはすでにFDAの見解がでている(ガーダント・ヘルス社のGuardant360 CDxおよびファウンデーション・メディシン社のFoundationOne Liquid CDx をFDAが承認)。MRDについての臨床研究が盛んに行われているようだ。

 

プレナリーセッションは実地臨床を変更する重要な演題が選ばれる。最初の演題は日本の大腸癌に関する臨床研究でパニツムマブ+化学療法とベバシズマブ+化学療法の比較試験である。パニツムマブ、ベバシズマブともにかなり以前に開発された薬剤なので決着がすでについている問題と自分では考えていたが、右側と左側の結腸の分子生物学的性質が異なるため明確な結果が出ていなかった。この研究は左側結腸に注目したもので、パニツムマブの優位性を明確に示す結果になった。

2つ目の演題は、ユーイング肉腫Ewing sarcomaの化学療法の無作為割付比較試験である。ユーイング肉腫のような希少疾患でも無作為割付が可能なことを示した。

3つ目の演題は、Her2低発現切除不能乳癌に対するtrastuzumab deruxtecan (T-DXd、以前の記事でDS-8201a) の効果で、対照群と比較してPFS、OSともに延長が認められた。4つの演題の中で、この演題のみスタンディングオベーションがあった。

4つ目の演題は骨髄腫に関する幹細胞移植の効果についての臨床研究で、PFSは延長するがOSの延長はない、という結果であった。幹細胞移植には強い副作用があるため、いろいろな議論が出てきそうである。

 

大体このような感じだが、いくつかのトピックスについては精査するつもりだ。