精密医療電脳書

分子標的薬 コンパニオン診断 肺がん ウイルス 人類観察

EGFR希少変異群:エクソン19欠失、L858R以外の変異

EGFR変異陽性肺癌の治療に関しては、主要な変異であるエクソン19欠失とL858Rを中心に展開してきた。しかしそれ以外の変異もEGFR変異としては頻度は低いが、他のALK等の肺癌関連遺伝子と比較すると低頻度とは言えない。薬理学的性質は主要変異とは異なり、変異の多くはアファチニブが他のEGFR-TKIよりも奏功する。また希少変異と主要変異が同一遺伝子に発生するいわゆる複合変異 compound mutations もEGFR-TKI治療細分化への有効性を示す可能性がある。

 

希少変異の分類

EGFR変異全体の鳥瞰には小林・光冨の総説(1)があるが、Yang らの分類(2)が治療薬を考慮しているので、これを採用する。Yang らの分類はEGFR希少変異を3つに分けている。

グループ1:エクソン18−21の変異、点突然変異、重複変異等すべてのタイプ。但しグループ2とグループ3は除く。
グループ2:de novo T790M 変異、T790Mを持つ複合変異を含む。
グループ3:エクソン20挿入変異。

グループ2はオシメルチニブが奏功する(AURAで奏効率85%)。グループ3に関しては、この変異を標的にした創薬が進んでいる。グループ1内には多種類の変異があるため、変異間に差があるかどうか問題になる。

 

希少変異に対するEGFR-TKIの効果

希少変異の頻度を図1にまとめた(1,3)。エクソン20挿入が希少変異の約3分の1を占め、次にG719Xが多くS791、L861Qと続く。

f:id:kkatogo13:20210317124026p:plain

図1.希少変異の頻度。小林・光冨(1).Shen et al(2)。

図2には臨床試験、後ろ向き臨床研究のデータの中で、奏効率を変異ごとにまとめた。第二世代EGFR-TKI(アファチニブ)と第三世代EGFR-TKI(オシメルチニブ)では奏効率が50−100%であるのに対し、第一世代EGFR-TKIでは20−50%と顕著な差がある。

f:id:kkatogo13:20210317124147p:plain

図2.臨床試験、臨床研究における薬剤別変異別奏功率。Masood et al.(4)のTable 5のデータを再構成した。Chinese retro 1, 2, 3はTable 5の降順。

上述のYang らの分類によりアファチニブの臨床試験LUX-Lung 2, LUX-Lung 3, and LUX-Lung 6のデータを再解析したところ次の様な結果であった(2)。

奏効率:グループ1,71%;グループ2,14%;グループ3,9%.
病勢制御率:グループ1,84%;グループ2,64%;グループ3,65%.
無増悪生存時間中央値:グループ1,10.7ヶ月;グループ2,2.9ヶ月;グループ3,2.7ヶ月.
全生存時間中央値:グループ1,19.4ヶ月;グループ2,14.9ヶ月;グループ3,9.2ヶ月.

グループ1ではエクソン19欠失、L858Rと同等の結果が得られたが、グループ2,3ではあまり効果がなかった。グループ2ではオシメルチニブで対応可能であり、グループ3については現在標的薬が開発中である。

precision-medicine.jp

 

文献

1. Kobayashi and Mitsudomi, Not all epidermal growth factor receptor mutations in lung cancer are created equal: Perspectives for individualized treatment strategy. Cancer Sci 2016 107: 1179–1186. DOI: 10.1111/cas.12996

2. Yang, J.C., Sequist, L.V., Geater, S.L., et al. Clinical activity of afatinib in patients with advanced non-small-cell lung cancer harbouring uncommon EGFR mutations:a combined post-hoc analysis of LUX-Lung 2, LUX-Lung 3, and LUX-Lung 6. Lancet Oncol. 2015 16:830-838. DOI: 10.1016/S1470-2045(15)00026-1

3. Shen YC, Tseng GC, Tu CY, et al. Comparing the effects of afatinib with gefi- tinib or erlotinib in patients with advanced-stage lung adenocarcinoma har- boring non-classical epidermal growth factor receptor mutations. Lung Cancer 2017 110:56–62. DOI: 10.1016/j.lungcan.2017.06.007

4. Masood, A., Kancha, R.K., Subramanian, J. Epidermal growth factor receptor (EGFR) tyrosine kinase inhibitors in non-small cell lung cancer harboring uncommon EGFR mutations: Focus on afatinib. Seminars in Oncology 2019 46:271–283. DOI: 10.1053/j.seminoncol.2019.08.004