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EGFR活性化に伴う構造変化 〜 L858RとT790Mについて

活性化によるEGFR蛋白の3次元構造の変化と、L858R と T790M の3次元構造上の特徴について説明する。なお、EGFRエクソン19欠失については以前紹介した。

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EGFRの3次元構造:活性化に伴う構造変化

EGFRはEGFが結合する細胞外領域、膜貫通領域、細胞内のキナーゼ領域の3つの領域に分けられる。EGFRにEGFが結合するとEGFRが二量体になり、キナーゼの活性化が起こる。キナーゼがEGFRのチロシン基をリン酸化することにより増殖促進シグナルが惹起される。

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図1.EGFRキナーゼ領域のアミノ酸配列。αヘリックス、赤の波線;βシート、緑の矢線;茶のアミノ酸番号、ATPと結合あるいは結合安定化に関与するアミノ酸

キナーゼ領域はN-lobeとC-lobeに分かれる。図1はキナーゼ領域のアミノ酸配列に、αヘリックス、βシート、そして活性に重要な部位を表示したものである。図2Aはエルロチニブが結合した活性型EGFRの3次元構造である。N-lobeはβ構造が多いが、キナーゼの活性化に重要な P-loop(図2B)と αC helix が含まれている(図2C)。P-loop はATPのβ- およびγ-リン酸基の固定に重要で、配列がGxGxΦG であるため G-loop ともよばれる。C-lobeは、大部分がαヘリックスで、触媒部位(catalytic loop)と活性化部位(A-loop)(図2D)がある。

活性化状態では、αC helix はATP結合部位(図2Aではに向く方向に位置し(”αC-in”)(図2A)、活性に重要なE762とK745間の塩橋(salt bridge)ができる(図2E)。またA-loop内にあるDFG-motifが伸びた状態になっている(”DFG-in”)。

非活性化状態の構造はSrc-likeと”DFG-out”の2つの構造が報告されているが(非活性型の構造)、Src型が多い(図2D、非活性型を灰色で活性型に重ねて表示)。A-loopのN端がコイル構造を取っているのが特徴である。

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図2.活性型EGFRキナーゼ領域の3次元構造。A、エルロチニブとの複合体の構造。T790は赤い球体、L858は赤の棒線、エクソン19欠失の領域(E746-A750)はオレンジで示している。B、P-loop(G719-G724)(赤)とβ1,β2シート。C、αCヘリックス(P741-A767)。D、A-loop:DFG motif(D855/F856/G857)からAxE motif (A882/L883/E884)まで。非活性型を灰色で重ねて表示している。E、β3シートのK745とαCヘリックスのE762間の塩橋。

 

L858Rによる活性化及びEGFR-TKI感受性のメカニズム

L858はA-loopのN端にあるDFG motif(D855/F856/G857)に隣接しており、F723, L747, M766, L788とともに疎水性アミノ酸クラスターをつくってDFG motifのコイル構造(非活性型の特徴)を安定化している。L858Rでは、この疎水性クラスターが壊れるため、コイル構造が不安定化する、という特徴がある。とくに、F723の側鎖の方向が変わってR748と相互作用するため、活性部位の溝が広がる。その結果ATPの遊離速度が上昇し、EGFR-TKIとの親和性が野生型の10から100倍に上昇する。

 

T790Mによる耐性のメカニズム

L858RとT790Mの複合変異体はL858Rよりも構造的に野生型に近く、そのためATP結合能が回復する、と考えられている。T790はATP結合ポケット中に位置しているため、Metへの置換で第一世代EGFR-TKIの結合能が低下する。EGFR-TKIへの耐性は、ATPと比較して相対的に結合能が低下するためであり、第二世代EGFR-TKIが第一世代よりもT790Mに効果があるのは、結合能は低下しているが非可逆的に作用し、一旦結合すると解離せずATPの結合を阻害するため、と考えられている。

 

文献

Vilacha, J.F., Mitchel, S.C., Akele, M.Z. et al. Making NSCLC Crystal Clear: How kinase structures revolutionized lung cancer treatment. Crystals 2020 10: 725. DOI:10.3390/cryst10090725