精密医療電脳書

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コーヒーのがん抑制効果

コーヒーのがん予防効果については、いろいろな議論がある。国内では肝がんについての国立がん研究センターの研究があり、一日に5杯以上摂取する人は男女を問わず全く摂取していない人よりも肝がん発生率が4分の1になっていた(コーヒー摂取と肝がんの発生率との関係について)。最近大腸がん患者についてがんの進行とコーヒー摂取の関連性について2つの研究が発表された。

 

Huらの研究はステージ I, II の初期大腸がんが対象である。元になっているデータは Nurses’ Health Study (1984–2012) と Health Professionals Follow-up Study (1986–2012) の2つのコホートで、1599人のステージ I, II 初期大腸がん患者である。フォローアップ期間中央値7.8年で803人が死亡し、そのうち188人が大腸がんによる死亡であった。1日4杯以上コーヒーを摂取していた人は摂取していない人と比較して死亡率は52%低かった(正確にはハザード比0.48,95%信頼区間0.28−0.83、p<0.01)。コーヒーはカフェインレスでも効果は変わらず、死亡率軽減効果は1日2杯以上摂取の人に認められた。また、コーヒー摂取の習慣は大腸がん診断前後でほとんど変化がなかった、

 

Mackintoshらの研究はステージ IV の進行大腸がん(限局進行及び転移)が対象である。これは第 III 相臨床試験(セツキシマブ/ベバシズマブの化学療法への追加の効果を検証する試験)に付随した前向き観察研究で、1171人の前治療のない進行大腸がん患者である。フォローアップ期間7.8年で1092人(93%)の患者が死亡あるいは病勢進行が認められた。摂取量が増えると死亡あるいは病勢進行のリスクが低減する傾向があった。1日2-3杯摂取の患者を無摂取の患者と比較した場合、全生存期間のハザード比は0.82(95%信頼区間 0.67−1.00)、無増悪生存期間では0.82(0.67−1.00)だった。1日4杯以上摂取の患者では、全生存期間のハザード比は0.64(95%信頼区間 0.46−0.87)、無増悪生存期間では0.78(0.59−1.00)で、1日2-3杯よりも軽減効果が高かった。

 

日本の肝がんの研究はがんの発生率で、大腸がんの場合はどちらも診断あるいは治療開始後の予後に関する研究である。カフェインの有無は効果と関係ないのでその他の成分による効果である。メカニズムとしては、コーヒーに含まれるクロロゲン酸等の抗酸化物質の関与で、酸化によるDNA損傷の防止、が考えられる(DNA損傷により遺伝子が変異して発がんするが、このプロセスを防止する)。米国では、がんだけでなく糖尿病や心疾患のリスクも低減するので、米保健社会福祉省の食事ガイドラインでは1日3-5杯のコーヒー摂取が推奨されている。このような状況から健康のためコーヒーが日本でも推奨されても良さそうだが、未知の健康リスクがあるかもしれないので、好きでもないのに飲む必要はないだろう。

なお蛇足になるが、タバコや酒は特別な税金がかかるが、コーヒーは軽減税率の対象で、消費税は8%である。

 

文献

Hu, Y., Ding, M., Yuan, C. et al. Association Between Coffee Intake After Diagnosis of Colorectal Cancer and Reduced mortality. Gastroenterology. 2018 154(4): 916–926. DOI: 10.1053/j.gastro.2017.11.010

Mackintosh, C., Yuan, C. Ou, F.-S. et al. Association of Coffee Intake With Survival in Patients With Advanced or Metastatic Colorectal Cancer. JAMA Oncol. 2020 6:1713-1721. DOI: 10.1001/jamaoncol.2020.3938