精密医療電脳書

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EGFR exon 20 insertion エクソン20挿入 治療薬開発:amivantamab、オシメルチニブ、ポジオチニブ、TAK-788

エクソン20挿入はEGFR変異中約6%の稀な変異であるが、ALKROS1などのドライバー変異の頻度と比べて少ないわけではない。第一世代及び第二世代EGFR-TKIは効果がないが、新しい生物学製剤(抗体薬)amivantamabは有効かもしれない。EGFR-TKIとしては、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)、ポジオチニブ poziotinib そしてTAK-788 の可能性が検討されている。

追記:2021年5月21日、FDAは白金製剤治療後のエクソン20挿入陽性非小細胞肺癌患者に対して、amivantamabを承認した。

追記:2021年9月16日、FDAはエクソン20挿入陽性非小細胞肺癌患者に対して、mobocertinib(開発コード、TAK-788;商品名、EXKIVITY)を承認した。コンパニオン診断薬はオンコマインDx Target Test マルチ CDxシステム(サーモフィッシャー)。

追記:2023年5月22日、mobocertinib(商品名、EXKIVITY)はその後、米国、英国、スイス、韓国、オーストラリアおよび中国では承認されているが、日本では承認されていない。

 

新しい抗体医薬 amivantamab

Amivantamab (JNJ-61186372) は bispecific antibody という一分子で2つのエピトープ(タンパク質の抗体結合部位)に結合する IgG1モノクローナル抗体で、EGFRとcMETの両方に結合する(1)。EGFRのエピトープは EGF結合領域内だが、セツキシマブ/パニツムマブとは異なる部位である。Amivantamab はcMETへのHGF結合を阻害するが、別の抗cMETモノクローナル抗体である onartuzumab のエピトープとは異なる部位に結合する。

Amivantamabのもとになる抗EGFRモノクローナル抗体と抗cMETモノクローナル抗体には、Fc領域のCH3ドメインにそれぞれF405L、K409Rという変異が入っている。変異のあるCH3ドメインは、ホモ二量体よりもヘテロ二量体のほうが安定なので、還元剤 2-mercaptoethylamine-HCl (2-MEA) を作用させてCH3ドメインを分離、再結合させるとヘテロ二量体ができる。この調製過程が controlled Fab arm exchange(cFAE)である(図1)(2)。

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図1.Controlled Fab arm exchange (cFAE) によるamivantamab (JNJ-61186372) の構築。Labrijn et al. Scientific Rep 2017 7: 2476 より改変。

 

Amivantamabとチロシンキナーゼ阻害剤の臨床成績

Amivantamab と2つのチロシンキナーゼ阻害剤オシメルチニブ osimertinib と poziotinib の第II相試験の成績を図2に示す(3,4,5,6)。

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図2.エクソン20挿入に対する治療薬の臨床試験成績。括弧内95%信頼区間。アステリスクは白金製剤ベースの化学療法歴のある患者に関する数値。HRはRWDとの比較。RWDでの一次治療は免疫チェックポイント阻害剤29.6%、EGFR-TKI 25.4%、ドセタキセル10%であった。

Amivantamab は、白金製剤ベースの化学療法の無増悪生存期間3.5ヶ月(real world data, RWD)と比較すると、まずまずの成績である。有害事象はほとんどがグレード1/2で発疹(72%)、輸注反応(60%)、爪囲炎(34%)である。投薬中止はほとんどない。治療に関連したグレード3以上の有害事象は6%である。

オシメルチニブの奏効率は25%だが、病勢制御率は85%で、これもまずまずの成績である。有害事象は他の変異と大差ない。

Poziotinib は EGFR、HER2/neu、Her4 のチロシンキナーゼを阻害する薬剤である。病勢制御率は68.7%(95%信頼区間:59.4−77.0)、無増悪生存期間は4.2ヶ月(historical control は2ヶ月)だが、主要評価項目の奏効率は14.8%とよくない。皮膚症状と消化器症状が強く、60%以上の患者で投薬量を減らす必要があった。

TAK-788 はエクソン20挿入変異EGFRをターゲットにしたEGFR-TKIだが、real world dataとの比較研究が行われている(6)。Amivantamabと同程度の奏効率と PFSで高い有効性が認められる。しかしグレード3以上の下痢の抑制が課題になっている。有害事象の点でamivantamabの方が有望である。

 

エクソン20挿入の3次元構造に関する考察

図3はEGFRの変異の一覧である。エクソン20挿入の頻度はEGFR変異中5.8%であり、EGFR変異としては少ない。

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図3.EGFR変異一覧。Kobayashi and Mitsudomi, Cancer Sci 2016 107: 1179–1186 より。

3次元構造では、A763_V764insFQEAを除いてαC helixの直近C端側のαC-β4 loopの中にある。エクソン19欠失はαC helixの直近N端側のβ3-αC loopの中にあり、対称的である(図4)。

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図4.エクソン19欠失とエクソン20挿入の位置。αC helixを挟んでN端側にエクソン19欠失、C端側にエクソン20挿入が入る。ボックス内はE762-K745塩橋。Tamirat et al. PLoS ONE 2019 14(9): e0222814 より改変。

エクソン19欠失に関する記事で述べたように、キナーゼ活性化メカニズムは1)αC helixの安定、2)塩橋をつくる2つのアミノ酸間(E762とK745)の距離が短縮、3)ATPとの水素結合数が増加、である。エクソン20挿入の位置から類似の活性化メカニズムが考えられるが、構造解析やシミュレーションの報告がないので、本当のところはわからない。

 

(追記:2020年8月18日)TAK-788を追加。

 

文献

  1. Moores, S.L. et al. Cancer Res 2016 3942-3953. DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-15-2833
  2. Labrijn, A.F. et al. Proc Nat Acad Sci USA 2013 110: 5145-5150. DOI: 10.1073/pnas.1220145110
  3. Park, K. et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9512). DOI: 10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9512
  4. Piotrowska, Z. et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9513). DOI: 10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9513
  5. Le, X. et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9514). DOI: 10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9514
  6. Horn, L et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9580). DOI:10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9580