EGFRリキッドは、進行性肺がん患者の血液あるいは肺がん組織のDNAを用いてEGFR(epidermal growth factor receptor、上皮性成長因子受容体)の変異(エクソン19欠失、L858R)の有無を決定する検査システムである。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI:ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ)選択の補助に用いる;変異陽性の場合はEGFR-TKIを投与、陰性の場合はその他の治療法を選択する。検査対象肺癌患者数は年間約5万人である。
EGFRリキッドは従来のEGFR遺伝子検査法よりも感度が高く、微量のEGFR変異を検出できる。そのため、血液中に滲出した微量の肺がんDNAを用いた変異検査ができる。通常の生検で採取するがん組織を使わず血液を用いる遺伝子検査をリキッドバイオプシーと呼ぶが、EGFRリキッドは国産初のリキッドバイオプシー検査システムである。
2020年7月31日厚生労働省が医療機器プログラムとして承認した。本書では、以下のEGFRリキッド情報を提供する。
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EGFRリキッドの解説
EGFRリキッドの概要(本ページ)
EGFRリキッドの臨床性能
EGFR exon 19 deletion : エクソン19欠失 ~ サブタイプとキナーゼ活性化メカニズム
リキッドバイオプシーによる肺癌病態モニタリング:EGFR リキッドによる EGFR-TKI 治療患者の ctDNA 動態解析
リキッドバイオプシーによるT790M測定のタイミング
変異検出の統計学(準備中)
肺癌遺伝子検査に関する基本的な見解
関連した一般向け解説
精密医療 〜 遺伝子情報による治療法の選択
リキッドバイオプシー 〜 がん患者にやさしい新しい検査法
EGFRリキッドの概要
EGFR-TKI 適応患者の選択
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)はEGFRの働きを阻害する分子標的薬で進行性肺癌に使う薬剤である。EGFRは細胞表面上にある蛋白質で上皮増殖因子(EGF)が結合すると活性化し細胞増殖を促進する(図1)。EGFRの遺伝子に変異が入ると蛋白質の構造が変化する。たとえばL858Rでは、EGFR蛋白質のロイシン(Leu)がアルギニン(Arg)にかわり、EGFの結合なしに常に細胞増殖を促進するようになる。その結果、細胞はがん化する。EGFR-TKIは変異陽性EGFRの働きを阻害することにより、がん細胞の増殖を止めて破壊する。
EGFR-TKIは変異陽性肺がんには効果があるが、変異陰性肺がんには効果がない。そのため遺伝子検査を行い、変異陽性患者にはEGFR-TKIを、陰性患者にはその他の治療法を用いる。日本を始めアジア人には変異陽性患者の比率が約50%と欧米人と比較して高いため(図2)、EGFR遺伝子検査は日本では特に重要で、進行性肺がんのほぼ全症例に行われる。
次世代シークエンサーによる高感度変異検出
従来の検査キットはPCRで変異を検出するが、EGFRリキッドは次世代シークエンサーで変異検出を行う。次世代シークエンサーは大量の遺伝子配列を決定する装置で、EGFRリキッドでは5万分子以上のEGFR遺伝子の配列を決定して変異を探索する。感度は0.01%で、従来の検査キットの感度数%と比較すると著しく高い。そのため血液中に滲出した微量の肺がんDNA(血中腫瘍DNA、ctDNA: circulating tumor DNA)のEGFR変異を安定して検出できる(図3)。EGFR遺伝子検査は、あくまで肺癌組織を優先すべきであるが、生検が困難なケースではリキッドバイオプシーが有効であろう。
血中腫瘍DNAは死滅したがん細胞から放出されたDNAだが、その量は、がんの大きさと比例する。そのため血中腫瘍DNAの量をモニターすることで、がんの進行度や抗がん剤の治療効果を調べることができる。従来の検査キットはDNA量を定量できないので、この目的には使えない。図4は一例だが、CTスキャンよりも早くがんの進行を予測している。
研究開発の経緯
2010年 進行性肺癌患者の血漿中にEGFR活性化及び耐性変異を発見。遺伝子検査に応用可能なレベルと判断。
2012年 EGFRリキッドを開発。
2012—14年 血漿検体と生検検体を比較する相関性試験(共同研究者代表:今村文生 大阪府立成人病センター呼吸器内科主任部長〜現・大阪国際がんセンター副院長)。
2018年 未固定肺癌組織を用いた相関性試験(共同研究者:岡見次郎 大阪国際がんセンター呼吸器外科主任部長;東山聖彦 大阪国際がんセンター副院長)。
2020年7月31日 厚生労働省が承認。
注. 現在承認されている薬剤はゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブだが、PMDAが制度整備中で、他のEGFR-TKIも追加される可能性が高い。