精密医療電脳書

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リキッドバイオプシーによる残存腫瘍病変の検出:臨床上のメリットの検証

リキッドバイオプシー、すなわち血中腫瘍DNAを使った各種診断法の開発は、研究が進展するにつれて応用可能範囲が絞られてきた。その中で手術後の残存腫瘍病変の有無を診断して、術後化学療法の適用に役立てる、という応用は、最も有望なものとして残っている。対照的にコンパニオン診断は、FDAが一腫瘍一遺伝子という基本方針を決めたため、多遺伝子同時検査、すなわち遺伝子パネル検査への道が絶たれた(リキッドバイオプシーの最新動向:グレイル、ガーダント・ヘルス、ファウンデーション・メディシン - 精密医療電脳書)。そのためかなり限局的な使用しかできなくなった。

 

最近、ASCO2022とNew England Journal of Medicineで、オーストラリアのWalter and Eliza Hall Institute of Medical ResearchのJeanne Tie博士らが多施設共同無作為化第II相試験DYNAMIC trialを報告した。これまでに血中腫瘍DNA(circulating tumor DNA, ctDNA)の有無で、ステージII結腸癌の術後無再発生存期間の長短を予測できることはわかっていたが、この診断法の臨床上の有用性は不明だった。この第二相試験は、ctDNAで術後化学療法の施行を決定する群(ctDNDA群)と標準治療群、すなわち従来の臨床所見に基づいて術後化学療法を施行するかどうか決定する群で無再発生存期間に違いがあるかどうか、検証する試験である。ctDNA を指標とするアプローチにより,再発リスクを上昇させることなく術後補助化学療法の実施を減らせるかどうかを評価するのが目的である。

 

ステージ II 結腸癌患者を,ctDNA 群と,標準治療群に 2:1 の割合で無作為に割り付けた。ctDNA を指標とする管理では、術後 4 週または 7 週の時点における ctDNA 解析で陽性であった場合に、オキサリプラチンベースの化学療法またはフルオロピリミジン系薬単剤による化学療法を行った。ctDNA 陰性患者には治療を行わなかった。主要有効性エンドポイントは2 年無再発生存率とした。術後補助化学療法の実施を副次的エンドポイントとした。

 

ctDNAの検出方法だが、腫瘍組織の遺伝子配列を解析してそれぞれの患者特異的は変異をまず検出する。対象遺伝子はAPC, TP53, KRAS, PIK3CA, FBXW7, BRAF, SMAD4, RNF43, POLE, CTNNb1, ERBB3, NRAS, PPR2R1A, AKT1, HRASの15個である。ctDNAの検出には分子バーコードを用いる塩基配列決定法SAFE-Seqを使う。患者特異的変異が一個以上ある場合をctDNA陽性とした。

 

結果の要約だが、全455症例のうち、302 例が ctDNA群、153 例が標準治療群に割り付けられた。追跡期間の中央値は 37 ヵ月であった。術後補助化学療法を受けた患者の割合は,ctDNA 指標管理群のほうが標準的管理群よりも低かった(15% 対 28%,相対リスク比 1.82,95%信頼区間 [CI] 1.25~2.65)。2 年無再発生存率は、ctDNA群は標準治療群に対して非劣性であった(それぞれ 93.5%と 92.4%,絶対差 1.1 パーセントポイント,95% CI -4.1~6.2 [非劣性マージン -8.5 パーセントポイント])。3 年無再発生存率は,術後補助化学療法を受けた ctDNA 陽性患者で 86.4%,受けなかった ctDNA 陰性患者で 92.5%であった。この結果により、著者らは、ctDNA を指標とするアプローチにより,無再発生存率を低下させることなく,術後補助化学療法の実施を減らすことができる、としている。

 

新しい診断法を評価するのに、従来の意思決定法との比較を行った例としては、MammaPrintのMINDACT試験がある(マンマプリント MammaPrint:化学療法を回避可能かどうか診断する - 精密医療電脳書)。この試験の場合、統計学的に設定した目標値は達成していたが、化学療法省略群が施行群と比較して微妙に無遠隔転移生存率が低くなっていた(化学療法群で95.9%,化学療法省略群で94.4%だが、p=0.267で有意差なし)。しかし、長期フォローアップでは、差が出てきているので、あとで推奨を変更している。詳細は上記記事参照のこと。

DYNAMIC trialの場合は、ctDNA群93.5%、標準治療群92.4%として数値自体はむしろctDNA群のほうがよい。ただしctDNA群ではオキサリプラチンベースの化学療法の頻度が高いので(ctDNA群、62%;標準治療群、10%)、その点は注意が必要だろう。理論的には、マンマプリントは腫瘍の遺伝子発現に反映された生物学的特徴を利用する間接的方法であるのに対し、ctDNAは直接残存腫瘍の存在を捉える方法なので、精度が高い、とは予想できる。

 

その他の点で感心したのは、ctDNA測定の成功率の高さである。ITT poluation 294症例中測定に失敗したのはわずか3例で、成功率99%である。多分大きなAPCが含まれているので、変異検出の頻度が他の癌腫よりも高い、と思われる。

 

文献

1. Tie, J., Cohen, J.D., Lahouel, K. Et al. N Engl J Med 2022, 386 2261-72. DOI: 10.1056/NEJMoa2200075