胃粘膜は、萎縮性胃炎から腸上皮化生に進行し胃癌に至る、と考えられている。米国ではCorrea Cascadeといい、non-atrophic gastritis (NAG) →multifocal atrophic gastritis (MAG) → intestinal metaplasia (IM) → gastric cancerと進行する。ピロリ菌 Helicobacter Pyroli はこの過程を促進する。ピロリ菌 は胃癌の大きなリスク因子だが、ピロリ菌除菌の胃癌抑制効果についてはよくわかっていない。最近韓国とコロンビア(研究者は米国)から研究報告があった。とくにコロンビアの研究は20年に渡る長期観察であり興味深い。
内視鏡手術後の異時性発癌
韓国の国立がんセンターの研究は、ピロリ菌陽性早期胃癌患者が対象で、ピロリ菌除菌による異時性発癌の促成固化を調べたものである。二重盲検試験で内視鏡手術の前に無作為割付で治療群とプラセボ群に分類し、手術後1週間以内に除菌治療を始める。治療薬はamoxicillin, clarithromycinとプロトンポンプ阻害剤 rabeprazoleである。ITT populationとして治療群194人、プラセボ群202人であった。フォローアップ期間中央値5.9年で、異時性発癌は治療群14人(7.2%)、プラセボ群27(13.4%)でハザード比は0.50(95%信頼区間 0.26−0.94、p=0.03)であった。胃体小彎部の萎縮の改善が治療群で45.4%、プラセボ群で15.0%認められた(p<0.001)。なお、副作用は治療群で多かった(42.0% vs. 10.2%、p<0.001)。
ピロリ菌除菌に異時性発癌と胃粘膜萎縮の抑制効果があることが確認できた。ただし効果は部分的であり(半分に減る程度)、術後の経過観察で発見される可能性が高いので、実際に臨床上のメリットがあるかどうかについては議論があるだろう。
コロンビア胃癌多発地域でのピロリ菌除菌の長期効果
コロンビアのアンデス山脈領域は胃癌の頻度が高い。この地域でのピロリ菌除菌の効果を20年間観察した研究である。
MAG, IMあるいはdysplasiaでピロリ菌陽性の人を二重盲検で無作為割付し、除菌しβ-カロテンとアスコルビン酸の両方あるいは一つを6年間投与(サプリの投与はしてもしなくても良い)した群(治療群)とプラセボ群に分けた。6年間は除菌禁止だが、それ以降は除菌をしても良いこととした。
ヒスパニック800人の集団中776人(97%)がピロリ菌陽性で、0,3,6,12,16,20年に生検を行って組織型を確認、Correa histopathology score(図1)で評価した。観察対象は12年目で612人、20年目には356人に減少した。
20年後、ピロリ菌陰性群はスコアが−0.12(95%信頼区間 −0.01〜 −0.23)、陽性群は+0.28(0.4〜0.14)で統計的な有意差があり(p=0.03)、除菌により病態進行の抑制効果があった。
観察期間が長く、統計学的に有意な結果であるため重要な研究である。ただし効果は限定的である。また対象集団が日本とはかなり異なるため、日本の医療環境にとっては間接的エビデンスとして捉えるべきであろう。
文献
内視鏡手術後の異時性発癌
Choi, I.J., Kook, M.-C.,Kim, Y.-I., Cho, S.-J., Lee, J.Y. et al. Helicobacter pylori Therapy for the Prevention of Metachronous Gastric Cancer. New Eng J Med N Engl J Med 2018;378:1085-95. DOI: 10.1056/NEJMoa1708423
ピロリ菌除菌の長期効果
Piazuelo, M.B., Mera, R.M., Peek Jr, R.M., Corrrea, P., Wilson, K.T. et al. The Colombian chemoprevention trial. Twenty-year follow-up of a cohort of patients with gastric precancerous lesions. Gastroenterology, Nov 17, 2020. DOI: 10.1053/j.gastro.2020.11.017