精密医療電脳書

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RET阻害剤:セルペルカチニブ、プラルセチニブ

FDAは2020年5月8日にセルペルカチニブ selpercatinib (商品名:Retevmo) を承認した。対象疾患はRET遺伝子に異常(変異または融合)を有する非小細胞肺癌と甲状腺癌である。詳しくは、成人の転移を有する非小細胞肺癌、進行または転移を有する全身療法が必要な12歳以上の甲状腺髄様癌、放射性ヨード治療の効果がなくなったか不適応な12歳以上で全身療法が必要な進行RET融合遺伝子陽性甲状腺癌。また2020年9月4日には、別のRET阻害剤プラルセチニブ pralsetinib(開発コード BLU-667;商品名 Gavreto)をFDAが承認した。対象疾患はRET癒合遺伝子陽性非小細胞肺癌である。なお、両者ともチロシンキナーゼの阻害剤である。

 

RET遺伝子異常による癌

RETはGDNF(glial cell line-derived neurotrophic factor)ファミリーの受容体チロシンキナーゼである。ヒルシュスプルング病の遺伝子異常としてはRETの点突然変異が最も多い。癌化に関しては2種類の遺伝子異常があり、一つは点突然変異で、生殖細胞変異の場合はMEN2(multiple endocrine neoplasia type 2)として甲状腺髄様癌と褐色細胞腫を引き起こす(図1)。甲状腺髄様癌の約半数にはRETの体細胞突然変異が認められる。生殖細胞変異についてはユタ大学がデータベース化している。

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図1.RET変異陽性癌。融合遺伝子陽性癌を黒字、点突然変異陽性癌を青字で示した。括弧内はRET変異陽性の頻度(Gentzler, R.D. ASCO 2020による)。

二つ目の遺伝子異常は融合遺伝子で、図1の例ではKIF5Bの5‘端とRETの3’端が融合した融合遺伝子を示している。KIF5B以外にCCDC6, NCOA4との融合遺伝子が報告されている。5‘端遺伝子のプロモーター活性化による発現量上昇によるキナーゼ活性化が癌化の原因と推定される。多種類の癌で認められるが、甲状腺乳頭癌以外では頻度が低い(図1)。臨床的には甲状腺癌は予後がよく手術で完治するため薬物療法の役割は低い。肺癌の場合はRET融合遺伝子の頻度が低くても、一般的にキナーゼ阻害剤が著効するため、精密医療の一環としてニーズが高い。

 

RETチロシンキナーゼ阻害剤(RET-TKI)の臨床試験成績

SelpercatinibはLIBRETTO-001、pralsetinibはARROWという第 I/II 相試験が行われている。両者ともバスケット試験で、非小細胞肺癌、甲状腺髄様癌(ARROWの場合は乳頭癌も)、その他の癌、を対象としている。主要評価項目は奏効率で、奏功期間や無増悪生存期間が副次評価項目になっている。なお、バスケット試験とは、がんの部位にこだわらず、遺伝子変異をバイオマーカーとして定め、その遺伝子変異を標的とする治療を行い、効果を検証する臨床試験のことである。2つの臨床試験成績を図2に示す。抗腫瘍効果はselpercatinibのほうが良いようにみえる。

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図2.RET-TKIの抗腫瘍効果。期間の単位は月。括弧内は評価可能患者での値(selpeprcatinibでは全員評価可能)。

忍容性はどちらもよく、副作用による中止症例はLIBRETTO-001で2%(12/531),ARROWではなかった。LIBRETTO-001におけるグレード3以上の主な有害事象は、高血圧(14%)、ALT上昇(12%)、AST上昇(12%)、高Na血症(6%)、リンパ球減少(6%)であった。

 

コンパニオン診断

Selpercatinibについては販売元である Eli Lilly が Thermo Fisher Scientific 及び Illumina とコンパニオン診断薬を開発中、とのことである。Pralsetinibについては Oncomine Dx Target Test がコンパニオン診断薬として承認されている。

 

LIBRETTO-001の文献

Drilon, A. et al. N Engl J Med 2020; 383:813-824. DOI: 10.1056/NEJMoa2005653

ARROWの文献

Gainor, J.F. et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9515) DOI: 10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9515

 

(追記;2020年9月9日)LIBRETTO-001の論文出版とpralsetinibの承認に対応。