精密医療電脳書

分子標的薬 コンパニオン診断 肺がん ウイルス 人類観察

EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の術後補助療法への応用:オシメルチニブで無病生存期間が顕著に延長する

オシメルチニブによるEGFR変異陽性非小細胞肺癌完全切除後の補助療法で、顕著な無病生存の延長が認められた。これを受けてFDAは同治療法を画期的治療 breakthrough therapy に指定した。今回の臨床試験以前にゲフィチニブについて中国のグループが術後補助療法での無病生存期間の延長を報告していたが、フォローアップ解析で全生存期間に関しては対照群との間に差がないことがわかった。

 

ADJUVANT-CTOG1104:ゲフィチニブ

中国のグループが行ったADJUVANT-CTOG1104試験では、ステージII-IIIAの完全切除のEGFR変異陽性非小細胞肺癌患者を無作為割付でゲフィチニブ(24ヶ月投与)群とビノレルビン+シスプラチン(3週ごと4サイクル)群に分けて術後補助療法を行った(文献1)。主要評価項目は無病生存期間で、ゲフィチニブ群28.7ヶ月、ビノレルビン+シスプラチン群18.0ヶ月で有意な延長が認められた(図1)。主要な有害事象はゲフィチニブ群でAST/ALT上昇、ビノレルビン+シスプラチン群は白血球減少等血液系の事象であった。重篤な副作用はゲフィチニブ群7%、ビノレルビン+シスプラチン群23%であった。

f:id:kkatogo13:20200905133102p:plain

図1.EGFR-TKI術後補助療法の臨床試験成績概略。括弧内95%信頼区間。NR, not reached; NC, not caculable; HR, harard ratio。

無病生存率は3年では差があるが、5年ではゲフィチニブ群22.6%、ビノレルビン+シスプラチン群23.2%と差がなかった。ADJUVANT-CTOG1104試験のフォローアップ解析で、全生存期間の延長は認められなかった(文献2)(図1)。なお、再発後治療については、EGFR-TKI群がそれ以外の治療群と比較して治療成績が良い傾向があった。

 

ADAURA:オシメルチニブ

ADAURA試験は、オシメルチニブの術後補助療法の効果を検証する第III相国際共同治験で、対象はステージIB-IIIA完全切除のEGFR変異陽性非小細胞肺癌患者である。無作為割付二重盲検でオシメルチニブ(<3年投与)群とプラセボ群に分ける。プラセボ群は化学療法の有無を問わない。主要評価項目はステージII-IIIAの無病生存期間、副次評価項目が全生存期間と安全性、ステージIB-IIIAの無病生存期間である。最初の解析は2022年に行う予定であったが、効果が顕著であったため、早期に中間解析を行うことになった。ステージII-IIIAの無病生存のハザード比は0.17(p<0.0001)、2年無病生存率が89%(ゲフィチニブ群)、53%(プラセボ群)で、顕著な延長が見られた。また、ADJUVANT-CTOG1104試験で見られた長期経過による無病生存率の接近の兆候は認められなかった。

2年無病生存率のハザード比はIB、II、IIIAそれぞれ0.50、0.17、0.12でIBは比較的に有効性が低かった(図2)。

f:id:kkatogo13:20200905133129p:plain

図2.ADAURA試験ステージ別成績。

 

課題

最初に述べたFDAのアクションからも明らかだが、早期に承認されるだろう。実際の運用は臨床家の判断になるが、米国ではII-IIIAには使うが、IBには使わない、という意見が多いようだ。また全生存期間評価は未達である点は注意が必要である。生物医学的視点からの問題点は、ADJUVANT-CTOG1104試験についてのMaらのcorrespondenceで指摘されている(文献4)。一つは投与期間で、FLAURA試験での無憎悪生存期間が18.9ヶ月であるが、最長3年という設定である。耐性ができている状態で最長1年半程余分に治療が行われるわけで、再設定の必要があるかもしれない。また再発に関しては二つの可能性が考えられ、一つはもとからEGFR変異陰性あるいは耐性変異陽性の腫瘍細胞が存在していて、それがオシメルチニブ存在下増殖したという可能性。今ひとつはEGFR変異陽性細胞が耐性を獲得して増殖したという可能性である。再発後治療法決定に影響するため、再発腫瘍の遺伝子型を調べる研究が必要である。

大腸癌を中心に術後残存腫瘍を検出するために血中腫瘍DNA(circulating tumor DNA, ctDNA)の利用が検討されている。大腸癌では、ctDNAが検出された症例に強力な補助療法を行う等の治療法改善が考えられている。EGFR変異陽性肺癌でも、このアプローチが応用可能であるため、ADAURA試験の探索研究としてctDNA測定が行われているようである。

 

文献

  1. Zhng, W-Z. et al. Lancet Oncol 2018; 19: 139–48. DOI: 10.1016/ S1470-2045(17)30729-5
  2. Wu, Y-L. et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9005). DOI: 10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9005
  3. Herbst, R. S. et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr LBA5). DOI: 10.1200/JCO.2020.38.18_suppl.LBA5
  4. Ma, J.a. et al. Lancet Oncol 2018 19: e125. DOI: 10.1016/S1470-2045(18)30074-3