2021年12月30日の論考の続きである。
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オミクロン株の起源についての小論がサイエンス誌に掲載された。
Where did ‘weird’ Omicron come from?
(”奇怪な”オミクロン株はどこから来たのか?)
この小論ではオミクロン株の自然発生について3つの可能性を紹介している。人工ウイルス説には触れていない。オミクロン株の配列はアルファ株やデルタ株とは全く異なり、他の株と分岐したのは2020年の中頃と推定される。オミクロン株が出現した2021年11月までどこに潜伏して進化したのか、ということが疑問の中心になる。3つの可能性とは、1)隔離されたヒト集団中での感染増殖、2)エイズ患者のような免疫不全症患者個人の体内での長期間感染、3)ヒト以外の動物での感染増殖、である。どの可能性も考え難い点がある。新型コロナウイルスは感染力が非常に強いので、長期間小さなヒト集団に隔離された、とは考えにくい。免疫不全症患者の中での進化では、健常人への感染力が強い方向へは進化しない、むしろ弱くなる。他の動物の中で進化した場合もヒトへの感染力が増強する方向へ進化するとは考えにくい。
スパイクタンパク質の配列を設計して人工的にウイルスをつくる人工ウイルス仮説については、ウイルス進化上の問題を検討する必要がない。人工ウイルスを疑う論拠は、アミノ酸置換を伴う非同義置換がスパイク蛋白上で30個であるのに対し、アミノ酸配列置換のない同義置換は1個しかない、という点である。(荒川央「オミクロン変異考察」)。塩基置換はランダムにおこるので重要な活性があるアミノ酸変異(非同義置換)が起こるまでに多数の同義置換が起こるのが通例である。Tony VanDongenは新型コロナウイルススパイク蛋白の非同義置換と同義置換をプロットした(図1)。
オミクロン株のみが突出して非同義置換が多い。私の疑問は、ウイルス配列を設計する確立した方法が見当たらない点だ。ただしこの分野は専門ではないので、蛋白立体構造の専門家の見解をきいてみた。
「オミクロン株の場合は、同義置換がほとんど起こらずに非同義置換が起こっているので、非常に強い選択圧がかかっていることになる。オミクロン株のケースが自然発生変異の範囲内か、人工的なものなのかは研究がないのでわからない」
変異株を人工的につくる方法は2つあって、一つはスパイク蛋白の遺伝子を直接改変する方法、もう一つは研究室内で細胞あるいは動物で継代培養を行い、変異の自然発生のプロセスを高速で行う方法だ。12月30日の論考では直接改変を中心に考えたが、2つ目の方法でもつくることはできる。例えば、スパイク蛋白の中和抗体を含む培地中の細胞にSARS-CoV-2の感染実験を繰り返せば、ワクチン耐性SARS-CoV-2株を獲得できるかもしれない。しかしこの方法は自然のウイルス進化のプロセスを高速化するだけなので、同義置換を抑制することは難しいだろう。
実験的に変異株をつくるアプローチに関して専門家は、
「感染力の高いスパイク蛋白質を設計するには、感染に必要なACE2などのヒト受容体の
結合は維持しながら、非常に多種多様に存在するであろう中和抗体群との結合を弱める必要がある。両者の結合部位は重複するので、この二つの要件を満たすような変異を見出すのはそんなに簡単ではない。ただし、この2年で、クライオ電顕により、ACE2とスパイクの複合体立体構造、いろいろな種類の抗体とスパイクの複合体の立体構造が次々とデータベースに登録されていおり、ヒトのACE2との結合に重要な残基、抗体との結合に重要な残基はある程度判明している。これらの部位に、ランダムに変異を入れて、ACE2との結合、中和抗体との非結合でスクリーニングできれば可能かもしれない。」
2021年12月30日の論考で述べた計算機シミュレーションに関するコメントは、
「研究は多数のグループにより行われている。David BarkerのRosettaが有名。」
人工ウイルス仮説の大きな問題点は、どのような目的でどのような活性を目標にウイルスを作ったのか、わからない点だ。オミクロン株は高感染性かつ弱毒であるが、高感染性は上記のデザインで獲得可能だが、弱毒化させる方法は不明だ。また善意で開発されたウイルスであれば、使用前に、ヒトでウイルスの性質の確認を行っていると思うが、このウイルスの場合感染性が高いため、確認実験をすればすぐに世界に広がってしまう。オミクロン株の性質を鑑みると、パンデミックの終息が目的でデルタ株などの従来株のカウンターとして設計された、と思われるが、デルタ株より凶悪なウイルスを目指したのかもしれない。とにかく謎に満ちたウイルスだ。
なお、SARS-COV-2のオリジナル株には、はっきりした目的をもって遺伝子改変が行われている:感染性を増強する配列改変が行われている。
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