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新型コロナウイルス経口薬:モルヌピラビルとPF-07321332の作用部位

新型コロナウイルスの経口薬、モルヌピラビル Molnupiravir(商品名 Lagevrio、メルク社)とPF-07321332(商品名Paxlovid、ファイザー社)が脚光を浴びている。特にPF-07321332は発症後3日以内に投与すれば、入院加療と重症化を89%防止できるということで、対新型コロナウイルス戦略を根本的にかえる可能性がある。臨床試験のデータ開示はまだないが、化合物に関する情報は発表されている。

 

コロナウイルスの生活環

コロナウイルスはRNAウイルスで、ゲノムRNAはタンパク質情報をコードしている(プラス鎖)。ゲノムサイズはおよそ20kbで、ウイルスのRNAポリメラーゼがゲノムRNAの複製とmRNAの転写の両方を行う。

図1はコロナウイルスの生活環である。コロナウイルス粒子は細胞表面上の受容体(新型コロナウイルスSARS-CoV-2の場合はACE2)にコロナウイルス上のスパイク蛋白が結合、細胞内へ取り込まれる。次にゲノムRNAから直接翻訳されてRNAポリメラーゼが生合成される。このRNAポリメラーゼがゲノムRNAの複製とmRNAの転写を行う。mRNAからウイルス構成蛋白が生合成される。これらのウイルス構成蛋白とゲノムRNAは小胞体内でウイルス粒子になる。ウイルス粒子は細胞の分泌系を使って細胞外へ放出される。放出されたウイルス粒子は他の細胞に感染し、この生活環を繰り返す。

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図1.コロナウイルスの生活環。2つの薬剤ともRNAポリメラーゼが作用部位である。

 

モルヌピラビル Molnupiravir

もともと抗インフルエンザ薬として開発された。合成ヌクレオシド誘導体N4-ヒドロキシシチジンのプロドラッグである。生体内でβ-D-N 4-Hydroxycytidine 5′-triphosphate
(EIDD-1931 5′-triphosphateあるいはNHC-TP)に代謝され、シチジンの代わりにNHC-TPがRNA複製時に取り込まれる(図2)。コロナウイルスのRNAポリメラーゼには校正機能があるが、NHC-TPはこの校正機能に認識されず、シチジンあるいはウラシルとしてRNAポリメラーゼ認識する。ウラシルの場合は変異になるので、多量の変異の蓄積によりウイルスが死滅する(error catastorpheあるいはlethal mutagenesisという)。

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図2.モルヌピラビルからNHC-TPへの代謝(ウィキペディアより)。

ファビピラビル(アビガン)とレムデシベルも核酸アナログだが、この2つの薬剤はRNAポリメラーゼの阻害によりウイルスの増殖を障害するので、作用機序はモルヌピラビルとは異なる。

 

PF-07321332

PF-07321332はコロナウイルスの主要なプロテアーゼ(タンパク分解酵素)である3C様プロテアーゼ(3C-like protease)の阻害剤である。3C様プロテアーゼはMproとも呼ばれ、正式にはC30エンドペプチダーゼとして知られている。コロナウイルスの前駆体蛋白を11個の保存部位で切断する。最も重要な基質はRNAポリメラーゼの前駆体であり、このプロテアーゼが阻害されるとRNAポリメラーゼができない。結果的にRNAポリメラーゼ生合成阻害によりウイルスの増殖を止める。

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図3.PF-07321332の構造(ウィキペディアより)。

まとめ

これまで新型コロナウイルスの経口薬としてはファビピラビル(アビガン)、モルヌピラビル 、PF-07321332があるが、共通して作用部位はウイルスのRNAポリメラーゼである。ファビピラビルはRNAポリメラーゼの阻害、モルヌピラビルはRNAポリメラーゼの精度低下と変異率上昇、PF-07321332はプロテアーゼ阻害剤で他のタンパク質前駆体にも影響するが、最も重要なタンパク質はRNAポリメラーゼ前駆体で、RNAポリメラーゼの生合成の阻害が作用機序となる。

3つの薬剤とも臨床試験のデータは発表されていないが、会社の公開情報によるとPF-07321332が最も有望である。

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