精密医療電脳書

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MET阻害剤:テポチニブ、カプマチニブ

2020年になってMET阻害剤が初めて承認された。テポチニブtepotinib(商品名:テプミトコTepmetko)とカプマチニブcapmatinib(タブレクタTabrecta)である。いずれもMETエクソン14スキッピング陽性の進行性非小細胞肺癌が対象疾患である。対象肺癌患者の頻度はALK変異陽性患者と同程度以上と思われるので、メリットは大きい。但しRCTに基づく承認ではない点に注意。

 

作用機序:構造と遺伝子異常の関係

METはHGFの受容体であり発生時に重要な働きをするが、癌化過程でも重要な働きをしている。構造的にはSema (semaphorin-like) 、PSI (cystein-rich domain, plexins-semaphorins-integrins) 、4つのIPT (immunoglobulin-like regions found in plexins and transcription factors), 傍膜領域、キナーゼ活性領域、ドッキング部位からなっている(図1左)。HGFの結合には膜外領域全体が関与しているが、Semaが主要領域である。

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図1.METの構造(左)及び遺伝子異常(右)。

癌化のための活性化のメカニズムとしてはエクソン14スキッピングと遺伝子増幅がある(図1右)。METはE3ユビキチンキナーゼによるユビキチン化により分解される。E3ユビキチンキナーゼはエクソン14領域のリン酸化Tyr1003に結合するが、エクソン14スキッピングでこのアミノ酸残基が消失すると、MET蛋白が分解されず発現量が上昇する。遺伝子増幅もMET蛋白の発現量上昇につながる。また頻度は低いがTyr1003の点突然変異や融合遺伝子(MET側はキナーゼ領域よりC端)もあり、これらも発現量上昇につながる遺伝子異常である。

 

METチロシンキナーゼ阻害剤

阻害剤の分類

METチロシンキナーゼ阻害剤(MET tyrosine kinase inhibitor, MEt-TKI)はタイプ I(あるいは Ia)、Ib、II に分類される。タイプIはキナーゼ活性領域の活性化した(ATPが結合したときの)ATP結合部位に入る阻害剤である。METにはATP結合部位にドラッグデザイン可能な微細構造があり、この部位を狙った阻害剤がタイプ IbでMETキナーゼへの特異性が高い。タイプ II は非活性化ATP結合部位に働くキナーゼ阻害剤で特異性は低く、他のキナーゼも阻害する。それぞれのタイプには以下の阻害剤がある。

タイプ I クリゾチニブ crizotinib

タイプ Ib カプマチニブ capmatinib、テポチニブ tepotinib、サボリチニブ savolitinib

タイプ II cabozantinib、glesantinib、merestinib

臨床試験成績

METエクソン14スキッピング陽性の進行性非小細胞肺癌対象に4つのMET-TKIの臨床試験が行われている(図2)。

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図2.MET-TKIの臨床試験成績。xL, x次治療(例、1L、一次治療);xL+, x次治療以降(例、2L+、二次治療以降); *, 組織で陽性;NR, not reached; NE, not evaluable; N/A, not applicable. Hatim Husain, Expanding the reach of MET-directed therapy, ASCO 2020 より;文献3,4に基づきアップデート。

奏効率はクリゾチニブを除きおよそ45%から70%であり、明確な腫瘍縮小効果がある。とくにカプマチニブの奏効率は一次療法で68%とEGFR-TKIとかわらない。3月25日に厚生労働省がテポチニブ tepotinib (Tepmetko)(メルクバイオファーマ)、5月6日にはFDAが、6月29日には厚生労働省がカプマチニブ capmatinib(Tabrecta)(Incyte Corporation →ノバルティスファーマ)を承認した。副作用情報について、カプマチニブの主要有害事象は浮腫(51%)と吐き気(41%)で、殆どはグレード1,2である。 テポチニブではグレード3,4の有害事象が28%に認められ、浮腫が7%で最も多い。また11%の患者が副作用で投薬中止となった。

コンパニオン診断

カプマチニブ; Foundation One CDx assay。組織のみ。

テポチニブ;Archer METコンパニオン診断システム。血液検体、組織検体のどちらでも利用可能。

 

抗MET抗体

Sym015は2つのヒト化抗体の混合物で、Semaのアルファサブユニットの異なったエピトープに結合する。HGF-MET間相互作用を阻害すると同時に、免疫反応 (antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity (ADCC),complement-dependent cytotoxicity(CDC)) を惹起する。45症例の第二相試験で有望な結果が得られている(5)。奏効率はMET増幅7例で40%、エクソン14スキッピング3例で100%であった。

 

(追記:2020年8月17日)カプマチニブの国内承認に伴い該当箇所を修正。

(追記:2020年9月9日)文献3,4の出版に伴い該当箇所を修正。

 

文献

  1. Drilon et al. Nat Med 2020 26(1):47-51. DOI: 10.1038/s41591-019-0716-8
  2. Lu et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9519) DOI: 10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9519
  3. Wolf et al. N Engl J Med 2020; 383:944-957. DOI: 10.1056/NEJMoa2002787
  4. Paik et al. N Engl J Med 2020; 383:931-943. DOI: 10.1056/NEJMoa2004407
  5. Camidge et al. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 9510) DOI: 10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9510