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COVID-19:ワクチン非接種者への非難は正当化できない(英ランセット誌)

新型コロナウイルスの感染状況は欧米と日本では全く異なり、特に欧州ではパンデミックが止まらない状況となっている。現在の国別感染者は次のとおりだ。

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国別新規感染者数。札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門より。

ワクチン接種率は欧州諸国が70%弱(イタリアのみ74%)と日本、韓国の76.4%。78.2%よりも若干低い程度だ。それにもかかわらず感染爆発が止まらず、ワクチンに感染予防効果がないことは明らかである。日本と比べるとドイツや英国は500倍以上感染者がいる。

コメント:WHOもCDCもワクチンの感染防止効果は部分的である、と声明を出している。

従ってワクチンパスポートは意味がないのだが、イタリア、フランス、スペイン、ドイツ、オーストリアなどEU各国ではワクチンパスポートの義務化が行われており(欧州はワクチンパスポートなしではカフェにも入れず スイスも16歳以上に提示義務化)、それに反対する抗議運動が大規模に行われてきた。SNSではよく見るが、主流メディアは全く報じていなかったのだが、今週になって風向きが変わり報道するようになった。

www.afpbb.com

軌を一にしてランセット誌にも「ワクチン非接種者への非難は正当化されない」という記事が掲載された(Günter Kampf, COVID-19: stigmatising the unvaccinated is not justified. Lancet 398,1871, Nov 20, 2021)。短いので全文和訳をあげる。

 

米国とドイツでは、政府高官が「ワクチン未接種者によるパンデミック」という用語を使用しており、ワクチン接種者はCOVID-19の感染の広がりには関係がない、と暗に示唆している。行政当局がこのフレーズを使用したことで、科学者の一部は「ワクチン未接種者は、COVID-19のワクチン接種者を脅かす」と主張するようになった。しかし、この見方は現象を正確に見ていない。
ワクチン接種を受けた個人が感染に関与し続けているという証拠が増えている。米国マサチューセッツ州では、2021年7月のさまざまなイベントで合計469の新しいCOVID-19症例が検出され、これらの症例の346(74%)は完全または部分的にワクチン接種された人々であり、そのうち274(79%)は症状があった。PCRのサイクル閾値は、完全にワクチン接種された人々(中央値22・8)とワクチン接種されていない、完全にワクチン接種されていない人々、またはワクチン接種状況が不明な人々(中央値21・5)の間で同じである(つまり両者のウイルス量は同じということ)。米国では、2021年4月30日までに合計10 262のCOVID-19症例がワクチン接種を受けた人々で報告され、そのうち2725(26・6%)は無症状で、995(9・7%)が入院しました。ドイツでは、60歳以上の患者の症候性COVID-19症例の55・4%が完全ワクチン接種を受けた個人であり、この割合は毎週増加している。ドイツのミュンスターでは、完全にワクチン接種された、またはCOVID-19から回復し、ナイトクラブに参加した380人のうち少なくとも85人(22%)でCOVID-19の新しい症例が発生した。ワクチン接種を受けた人は重症化リスクはひくくなるが、感染してまた人を感染させるため、パンデミックの一部である。したがって、「ワクチン未接種者によるパンデミック」は科学的に間違った表現で、危険な考え方である。歴史的に、米国とドイツの両方が、肌の色や宗教について人口の一部に汚名を着せることによって否定的な経験を生み出してきた。私は、政府高官や科学者に、患者、同僚、その他の市民を含むワクチン未接種の人々の不適切な非難をやめ、社会を一つにまとめるために特別な努力を払うよう呼びかける(ここまで)。

 

医学・科学誌には良い雑誌が多数あるが、一般読者が多い、すなわち専門家でない人もよく読む雑誌の中では、医学誌では英国のランセット、米国のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンの2誌が、科学誌では英国のネーチャー、米国のサイエンスの2誌が代表的だ。思想的には、英国の2誌、ランセットとネーチャーのほうが米国の2誌よりもリベラル色、すなわち左翼色が強い。典型的なリベラルでは、社会・人権面で人種や性差別に明確に反対するだけでなく、同性婚賛成、犯罪に対する厳罰化反対、移民自由化賛成、麻薬の合法化賛成、死刑制度廃止支持で、最低限の生活水準を保証する社会保障にも賛成である。EU各国政府と米国民主党の政治方針はリベラルである。現実の政治では社会主義的傾向が強く、コロナに対しては抑圧的政策が特徴的だ:すなわち強力なロックダウン、ワクチンパスポートの義務化、そして最近ではワクチン接種の義務化など。米国では州ごとで政策が異なり、民主党の州はリベラルでワクチン接種率が高く、ロックダウン、ワクチンパスポート義務化に積極的、対して共和党は保守的でワクチン接種率は低く、ロックダウン、ワクチンパスポートに消極的である。オーストラリアとニュージーランドでは、感染者が少ないにもかかわらず、欧米よりも強力な抑圧的政策が取られている。これらリベラルな政府のロックダウンやワクチンパスポート義務化に対し、世界各地で大規模なデモが起こっているわけだ。

リベラルなランセット誌もこのような記事を掲載するようになったのか、と感心したのだが、一筋縄ではいかないようだ。著者のカンプは、米国の人種差別、ドイツのユダヤ人差別の過去を引き合いに出しているが、これはおかしい。米国とドイツ以外の多くの国で行われているので、ワクチンパスポート等非ワクチン接種者に対する差別的扱いはこれらの歴史とは関係なく、リベラルな政治姿勢によるものである。過去の歴史を引き合いに出して、議論のすり替えを図っている点は、やはりランセットである。

上のAFP通信の記事にはデモの写真が多数掲載されているが、どれを見てもほとんどの人はマスクをしていない。感染が広がっているのに、いい加減マスクぐらいしろよ、と言いたくなる。日本で何故感染者が少ないのか理由はわかるべくもないが、これらの写真を見ていると、マスクの習慣の違いだけではないか、という気がしてくる。