精密医療電脳書

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BRAF阻害剤:ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ

BRAF(v-raf murine sarcoma viral oncogene homolog B1)はセリン/スレオニンキナーゼであり、ERK/MAPK情報伝達系のタンパク質である。BRAF阻害剤ベムラフェニブvemurafenib(商品名:ゼルボラフ Zelboraf)、ダブラフェニブ dabrafenib(タフィンラー Tafinlar)、エンコラフェニブ encorafenib(ビラフトビ Braftovi)はV600変異陽性腫瘍に用いるが、単剤では抗がん効果は不十分であるため、同系列の情報伝達系関連タンパク質の阻害剤を併用する。悪性黒色腫と非小細胞肺癌ではMEK阻害剤を、大腸癌には抗EGFR抗体を使用する。

 

BRAF阻害剤の作用機序

チロシンキナーゼ受容体(たとえばEGFR)の活性化シグナルはRAS-BRAF-MEK-ERKの情報伝達系を通じて細胞分化及び増殖を促進する。BRAF はリン酸化によりMEKを活性化する。BRAFにV600E等の活性化変異が起こると、この情報伝達系が常時活性化され癌化する(図1A)。現行のBRAF阻害剤はBRAF V600E 変異陽性腫瘍に用いるが、BRAF V600Eは3次元構造解析によると、不活性型の構造が不安定なため常時活性型の構造をとる。そのためRASに依存せず活性化シグナルがERKに伝えられる。問題は、BRAF以外のRAFファミリー分子の活性化による耐性の出現である(図1B)。この耐性に対応するためにMEK阻害剤を併用する。

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図1.BRAFを介する情報伝達経路。A, BRAF V600Eによる活性化。B、単剤の場合他のRAFファミリーの活性化により、BRAF阻害剤耐性となる。Caputo et al. Int J Mol Sci 2019 20:5369 より。

 

メラノーマの臨床試験成績:MEK阻害剤を併用

BRAF V600E/V600K変異陽性の手術不能あるいは転移性メラノーマが対象であるが、補助療法にも使われることがある。併用するMEK阻害剤は、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブについて、それぞれコビメチニブ cobimetinib(コテリック Cotellic)、トラメチニブ trametinib(メキニスト Mekinist)、ビニメチニブ binimetinib(メクトビ Mektovi)である。市販されている薬剤の臨床試験成績を図2に示す。また有害事象を図3に示す。

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図2.BRAF V600E陽性手術不能メラノーマに対するBRAF阻害剤単剤(上3行)とMEK阻害剤併用(下3行)の試験成績。Fujimura et al. 2019 より。

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図3.メラノーマに対するBRAF阻害剤単剤とMEK阻害剤併用の有害事象。LFT、肝機能検査;SCC、扁平上皮癌。Fujimura et al. 2019 より。

 

非小細胞肺癌の臨床試験成績:MEK阻害剤トラメチニブを併用

BRAF V600E変異陽性進行性非小細胞肺癌に対するダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法のBRF113928第II相試験(多施設非無作為抽出非盲検)の成績を図4に示す。主要なgrade 3以上の有害事象は発熱とAST上昇だが、概ねメラノーマと同じである。

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図4.BRAF V600E陽性進行性非小細胞肺癌に対するダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法の臨床試験成績(BRF113928第II相試験)。括弧内95%信頼区間。コホートA、前治療有/無;コホートB、前治療有1−3レジメン;コホートC、前治療なし。

 

大腸癌の臨床試験成績:セツキシマブを併用

大腸癌の場合、ERKはEGFRに対してnegative feedbackで活性を抑制しているが(図5A)、BRAF阻害剤でERKの活性が低下するとEGFRの活性が上昇する(図5B)。大腸癌の場合は、メラノーマや非小細胞肺癌と異なり、この逆説的活性化 paradoxical activationを考慮する必要があり、そのため大腸癌でよく用いられる抗EGFR抗体セツキシマブ cetuximab(アービタックス Erbitux)の併用が検討された。

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図5.大腸癌におけるRAS-BRAF-MEK-ERK情報伝達系。活性化したERKはEGFRに対して抑制的に働く(A)。BRAF阻害剤投与時はEGFRに対する抑制効果が現象、EGFRが活性化する(逆説的活性化 paradoxical activation)(B)。Caputo et al. Int J Mol Sci 2019 20:5369 より。

治療歴数が1または2のBRAF V600E変異陽性の進行大腸癌に対して行った無作為割付第III相試験BEACON の結果を図6に示す。有害事象は消化器と皮膚症状が主で、grade 3以上が50−61%、治験中止率7−11%、致死的副作用3−4%で各群に大きな差はなかった。

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図6.BEACON第III相試験の成績。括弧内95%信頼区間。HR、ハザード比。

2剤併用と3剤併用で全生存期間で差がなかったため、FDAは2剤併用を承認、欧州も同じ方向である。国内は小野薬品が3剤併用を申請している。

 

コンパニオン診断

以下のコンパニオン診断薬が国内で承認されている。

・Cobas® 4800 BRAF V600変異検出キット;対象疾患はメラノーマ、対象薬剤はベムラフェニブ。

・BioMerieux (bMx) THxID®-BRAF assay;対象疾患はメラノーマ、対象薬剤はダムラフェニブとエンコラフェニブ。

・オンコマインDx Target Test マルチCDxシステム;対象疾患は非小細胞癌、対象薬剤はダムラフェニブ。

 

(追記:2020年8月17日)一部改訂。

 

文献

Fujimura, T. dt al. Cancers 2019 11:342. DOI:10.3390/cancers11091342

Anguera, G. et al. J Thorac Dis 2018 10:589-592. DOI: 10.21037/jtd.2018.01.129

Kopetz, S. et al. N Engl J Med 2019 381:1632-43. DOI: 10.1056/NEJMoa1908075