精密医療電脳書

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DNAミスマッチ修復と腫瘍変異負荷:免疫チェックポイント阻害剤の効果予測因子

DNAミスマッチ修復異常DNA mismatch repair protein deficiency (dMMR)と腫瘍変異負荷 tumor mutation burden or load (TMB, TML) は免疫チェックポイント阻害剤の効果予測因子である。免疫細胞が癌細胞を攻撃するためには、抗原となる異常蛋白が必要だが、ゲノム上の変異が多ければ抗原性の変化した異常蛋白の出現頻度が上昇するため、免疫チェックポイント阻害剤が奏功する可能性が上昇する。とくにDNAミスマッチ修復異常では変異数が大幅に増加し、免疫チェックポイント阻害剤が奏功する。dMMRの臨床応用は大腸癌で先行していたが、2017年5月23日にdMMRあるいは高マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability-high, MSI-H)の成人及び小児癌患者に対してペンブロリズマブ pembrolizumab(商品名キートルーダ Keytruda)が米国承認された。

他方、次世代シークエンシングで直接ゲノムの変異数を測定できる。これが腫瘍変異負荷 tumor mutation burden or load (TMB, TML)で、通常1MBの変異数で表される。ペンブロリズマブの第二相バスケット試験であるKeynote-158での結果により、2020年6月16日にTMBの高い(TMB-high:1MBに10変異以上)成人及び小児癌患者へのペンブロリズマブの使用が米国で承認された。

 

DNAミスマッチ修復機構

DNAミスマッチ修復機構には4つのタンパク質が重要な働きをしている:mutL homolog 1 (MLH1)、postmeiotic segregation increased 2 (PMS2) 、mutS homologue 2 (MSH2)、mutS 6 (MSH6)である。MSH2/MSH6ヘテロ二量体がまずミスマッチ塩基に構造変化を引き起こして結合し、その後でMLH1/PMS2ヘテロ二量体がミスマッチ領域を切断し修復する(図1)。臨床的には抗体染色で調べるが、MLH1, PMS2, MSH2, HSH6の一つでも検出できなければ、mismatch repair protein deficiency (dMMR)と診断、4つとも検出できればmismatch repair protein proficient (pMMR)と診断する。

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図1.DNAミスマッチ修復機構。A,修復過程。B、変異のある場合は分解する。Zhao et al. Journal of Hematology & Oncology 2019 v12: 54 より。

DNAの中で1~数塩基の塩基配列が繰り返すマイクロサテライトは、DNA複製時に繰り返し回数(反復回数)のエラーが生じやすい部分である。ゲノム上で1~数塩基の塩基配列が繰り返すマイクロサテライトは、DNA複製時に繰り返し回数(反復回数)のエラーが生じやすい。ミスマッチ修復機構の機能が低下すると腫瘍組織と正常組織でマイクロサテライトの反復回数に違い(ばらつき)が起こる。これをマイクロサテライト不安定性microsatellite instability(MSI)と呼び、MSIを指標にミスマッチ修復機構の異常を診断できる。

 

dMMRとTMBの関係

StadlerらはMSK-IMPAKTパネル(344遺伝子のパネル:ゲノムプロファイリングについてFDAが承認)の大腸癌の研究で、dMMRとTMBの関係を検証している。TMB20変異未満の193症例では、dMMRは1症例もなかった。TMB20変異以上の31症例中28症例(90%)がdMMRであった。残りの3症例はTMB150以上であった。極端に変異の多い症例はMMR以外のメカニズムによる異常である。dMMR症例のTMB中央値は50、pMMR症例では6.4であった。なお、市販品でTMB測定によく用いられる測定法はFoundation One CDxであるため、MSK-IMPAKTの数値は一つの目安ではあるが、傾向は他の測定法とはあまり変わらない、と考えられる。

 

KEYNOTE-158:多種類の固形癌におけるDNAミスマッチ修復と腫瘍変異負荷の影響

KEYNOTE-588はペンブロリズマブのオープンラベル単群の第二相バスケット試験で、一次治療として標準的な化学療法歴のある切除不能な局所進行又は転移性癌患者を対象としている。以下の11のコホートからなっている:肛門癌(コホートA);胆管癌(乳頭部以外;コホートB);分化型神経内分泌腫瘍(コホートC);子宮内膜癌(コホートD);子宮頸癌(コホートE);外陰部癌(コホートF);小細胞肺癌(コホートG);中皮腫(コホートh);乳頭及び濾胞甲状腺癌(コホートI);唾液腺癌(コホートJ);MSI-H(高マイクロサテライト不安定性)あるいはdMMRの固形癌(コホートK)。

 

KEYNOTE-158におけるバイオマーカー測定

dMMRの診断法は前述のとおりである。マイクロサテライト不安定性はBAT25, BAT26, NR21, NR24, Mono27のセットかBAT25, BAT26, Di 5S346, Di 2S123, Di 17S250のセットを用いて、5つの中で2つ以上位置がずれていた場合MSI-Hと診断した。tTMB(組織での腫瘍変異負荷, tissue TMB)の診断にはFoundationOne CDxを用いて1MBあたりの変異数が10以上の場合tTMB-highとした。

 

DNAミスマッチ修復

評価に用いた症例は、コホートKが比較的に多い。子宮内膜癌(21%)、胃癌(10.3%)、胆管癌(9.4%)、膵癌(9.4%)、小腸癌(8.2%)等である。全体の奏効率は34%(図2)であるが、個々の癌で差がある:子宮内膜癌、57.1%(95%信頼区間42.2−71.2);胃癌、45.8%(25.6−67.2);胆管癌40.9%(20.7−63.6);膵癌18.2%(5.2−40.3);小腸癌42.1%(20.3−66.5);卵巣癌33.3%(11.8−61.6);脳腫瘍0%(0−24.7)。子宮内膜癌や胃癌では奏効率が高いが、膵癌、脳腫瘍では低い。無憎悪生存期間も子宮内膜癌25.7ヶ月(4.9—NR)や胃癌11.0ヶ月(2.1−NR)だが、膵癌2.1(1.9−3.4),脳腫瘍1.1(0.7−2.1)である。

 

腫瘍変異負荷

評価に用いた症例はコホートA-Jが中心である。小細胞肺癌33%、子宮頸癌16%、子宮内膜癌15%、外陰部癌15%、肛門癌14%が多い。tTMB-high症例の奏効率は29%で、tTMB-highでない症例の奏効率6%と比較して明らかに高い(図2)。dMMR/MSI-H症例の奏効率34%と比較しても少し低い程度である。奏効率の組織間差を評価については、症例数が少ないため難しい。

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図2.KEYNOTE-158の臨床成績。dMMR/MSI-Hの症例とtTMBの症例は対象固形癌の種類が違う点に注意。Non-PD、ペンブロリズマブ投与前に計測可能病変がない;NE、評価可能な画像データがない;not assessed、治療開始後の画像データがない。

 

考察

dMMR/MSI-H、tTMB-highともに対照と比べて有意な奏効率が認められた。dMMR/MSI-Hの結果から組織間差があるのは明確であるが、希少癌ではわからないので注意が必要である。

 

文献

dMMRとTMBの関係

Stadler, Z.K., Battaglin, F., Middha, S. et al. Reliable Detection of Mismatch Repair Deficiency in Colorectal Cancers Using Mutational Load in Next-Generation Sequencing Panels. J Clin Oncol 2016 34(18):2141–2147. DOI: 10.1200/JCO.2015.65.1067

KEYNOTE-558: dMMR/MSI-H

Marabelle, A., Le, D.T., Ascierto, P.A. et al.Efficacy of Pembrolizumab in Patients With Noncolorectal High Microsatellite Instability/Mismatch Repair–Deficient Cancer: Results From the Phase II KEYNOTE-158 Study. J Clin Oncol 2019 38: 1-10. DOI: 10.1200/JCO.19.02105

KEYNOTE-558: tTMB-high

Marabelle, A., Fakih, M., Lopez, J. et al. Association of tumour mutational burden with outcomes in patients with advanced solid tumours treated with pembrolizumab: prospective biomarker analysis of the multicohort, open-label, phase 2 KEYNOTE-158 study. Lancet Oncol 2020 21: 1353–1365. DOI: 10.1016/ S1470-2045(20)30445-9