精密医療電脳書

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ROS1融合遺伝子陽性肺癌とその治療薬:クリゾチニブ、ロルラチニブ、エヌトレクチニブ

ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺癌にはクリゾチニブ crizotinib(商品名 ザーコリ Xalkori)が用いられてきたが、中枢神経系への浸透が悪い、という問題がある。この点については2つの薬剤ロルラチニブ lorlatinib(ローブレナLorbrena)とエヌトレクチニブ entrectinib(ロズリートレク Rozlytrek)が有望である。どの薬剤も受容体チロシンキナーゼ阻害剤であるが、ROS1特異的ではなく、クリゾチニブとロルラチニブはALK/ROS1、エヌトレクチニブはALK/ROS1/NTRKを阻害する。

 

ROS1融合遺伝子バリアントリスト

ROS1融合遺伝子は他の遺伝子の5’側とROS1の3’側が融合した遺伝子で、5’側の遺伝子のプロモーターにより融合遺伝子の発現量が上昇、その結果ROS1融合遺伝子チロシンキナーゼの活性が上昇することにより癌化する。癌変異データベースCOSMIC(Catalogue of Somatic Mutations in Cancer)のではCD74、SLC34A2、EZR、SDC4の4つの遺伝子で全バリアントの92.5%を占めている(図1)。全バリアントリストを図2に示した。現在コンパニオン診断薬としてはOncoGuide® AmoyDx® ROS1融合遺伝子検出キットとオンコマイン Dx Target Test マルチ CDxシステムが国内承認されている。

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図1.COSMICにおけるROS1融合遺伝子バリアントの頻度。COSMICのデータは2020年10月22日のもの。

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図2.ROS1融合遺伝子バリアントリスト(COSMIC 2020年10月22日)。

 

臨床試験成績

クリゾチニブ、ロルラチニブ、エヌトレクチニブについて、それぞれ非盲検単一群の臨床試験が行われている。それらの結果を図3にまとめた。どの試験の対象患者も対象薬剤投与前の治療は均一ではなく、未治療の患者をはじめ様々な治療歴の患者が含まれている。ロルラチニブの試験では、クリゾチニブの治療歴の患者が多いが、エヌトレクチニブでは2例のみである。

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図3.ROS1融合遺伝子陽性肺癌に関する臨床試験成績。

クリゾチニブの試験(PROFILE 1001)は観察期間が長く全生存期間の評価も可能で、51.4ヶ月(4年生存率51%)と良好な結果が得られている。奏効率は62−77%で、初回治療における薬剤間の差は大きくない。ロルラチニブについてはクリゾチニブ治療歴のある患者でも奏効率35%であり、クリゾチニブ耐性患者への適応も考慮可能な結果であった。

ロルラチニブ、エヌトレクチニブでは脳転移についての評価も行われており、奏効率50−64%と良好な結果が得られた。中枢神経系への浸透性はこの2剤の優れた特性であるため、さらなる試験で評価する必要があるだろう。

クリゾチニブ治療歴のあるロルラチニブ治療群では耐性変異との関連性も研究されている。最も頻度の高いG2032R変異は6症例あり、5症例はSD、1症例はPDでこの変異への効果は不明瞭であった。

 

副作用

これらの試験における各薬剤の有害事象は以下のとおりである。

クリゾチニブ

グレード3の主要な副作用は高リン酸血症(15%)、白血球減少(9%)、トランスアミナーゼ上昇(4%)、嘔吐(45%)であった。グレード4/5の副作用はなかった。また、副作用による完全な投薬中止はなかった。

ロルラチニブ

グレード3/4の主要な副作用は高トリグリセリド血症(19%)と高コレステロール血症(14%)。重篤な副作用は7%。一時的投薬停止は36%、投与量減量は25%であった。

エヌトレクチニブ

グレード3は31%、グレード4は4%。グレード3/4の主要な体重増加8%、白血球減少4%であった。重篤な副作用は中枢神経障害(3%)、心障害(<2%)であり、投薬中止は5%、投与量減量は34%であった。

 

 文献

  1. Shaw A.T., Riely G.J., Bang Y.J., et al. Crizotinib in ROS1-rearranged advanced non-small-cell lung cancer (NSCLC): updated results, including overall survival, from PROFILE 1001. Ann Oncol. 2019 30(7):1121-1126. DOI: 10.1093/annonc/mdz131
  2. Shaw A.T., Solomon B.J., Chiari R., et al. Lorlatinib in advanced ROS1-positive non-small-cell lung cancer: a multicentre, open-label, single-arm, phase 1-2 trial. Lancet Oncol. 2019 20(12):1691-1701. DOI: 10.1016/S1470-2045(19)30655-2
  3. Drilon A., Siena S., Dziadziuszko R., et al. Entrectinib in ROS1 fusion-positive non-small cell lung cancer: integrated analysis of three phase 1-2 trials. Lancet Oncol. 2020 21(2):261-270. DOI: 10.1016/S1470-2045(19)30690-4