精密医療電脳書

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肺がんコンパクトパネルの中核となるアイデア

肺がんコンパクトパネルは2つ他のゲノム関連技術にはないアイデアに基づいている。一つは、異常検出を変異検出に使っている点、一つはパネルにおけるモデュール構造で、小型パネルの大きなデメリットを回避している。

 

異常検出による遺伝子変異分析

 

現在のゲノム科学の基盤技術は次世代シークエンサーだ。個人ゲノム、メタゲノム、単一細胞解析など基礎研究分野と違って、臨床医学では高い感度と正確さが要求される。

 

次世代シークエンサーによる遺伝子検査では、対象遺伝子を多数回シークエンスして変異を探す。シークエンサーには読み取りの誤りがあるので、誤りよりも明らかに高い頻度で変異が出現したときに変異ありと判定する。統計学的には、読み取り誤り(PCR/シークエンスエラー率)とシークエンスの回数(リード数)と変異検出感度(検出限界)の間には次の図のような関係がある。

エラー率が低いほど、リード数が多いほど、検出限界が低下する、即ち感度が上昇する、という関係がある。エラー率はそれぞれの変異で決まった値を取るので、リード数を調節することにより必要な感度を得ることができる。

 

このような統計学を活用する検出方法を異常検出 anomaly detection といい、私達が初めて次世代シークエンサーを使った遺伝子変異分析に使った。肺がんコンパクトパネルでは、他の遺伝子検査パネルの7〜10倍のリード数を適用することにより、肺癌診療で使われる幅広い検体種に対応できる感度を達成している。

 

モデュール構造

 

抗がん剤の研究開発は日進月歩で、次々に新しい遺伝子をターゲットにした薬剤が開発されている。新しい遺伝子検査パネルも新しい遺伝子に対応する必要があり、そのため搭載遺伝子が少ない小型のパネルは不利で、遺伝子数が多い大型のパネルが良い、とされてきた。

小型のパネルでも新しい遺伝子に対応できるように「モデュール」というコンセプトを考案した。次世代シークエンサーを使った遺伝子検査では遺伝子をPCRで増幅した後、増幅産物を次世代シークエンサーで分析する。次世代シークエンサーでの処理は共通なので、各々の遺伝子の検査性能はPCR増幅の段階で決まる。同時にPCR増幅する遺伝子のグループを「モデュール」と呼び、「モデュール」ごとに品質管理を行い、薬事申請のデータを取得する。新規遺伝子の追加が必要な場合は、新しい「モデュール」を追加することで対応でき、遺伝子パネル全体の再評価は必要ない。薬事申請も追加「モデュール」のデータのみで可能だ。

肺がんコンパクトパネルはモデュール構造を採用している。そのモデュール構造は次の図のとおりである。