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ブレトン・ウッズ3:パンデミック・ウクライナ侵攻後の経済 〜 現物資産に裏付けられた人民元が台頭する

新型コロナウイルスのパンデミックとウクライナ侵攻後の社会は、これまでとは違ったものになる、と多くの人が考えているが、はっきりした発言がなされることはあまりなかった。社会の様相に経済は大きく影響するが、3月6日にクレディ・スイスCredit Suisseの短期金利ストラテジスト ゾルタン・ポズサーZoltan Pozsarは、現在のドル基軸通貨体制ブレトン・ウッズ2から、新しい経済体制ブレトン・ウッズ3へ移行を予測した。ポズサーは難解な市場の動きを正確に予測し説明することで有名で、クレディ・スイスの「予言者」と呼ばれている。3月6日のレポートは、米国のロシアに対する経済制裁の発表後直ちにまとめられたものだ。このレポートは、ブレトン・ウッズ3への移行がどのような仕組みで行われるか、を解説したもので、ブレトン・ウッズ3の社会については説明していない。以下ポズサーの議論を私の理解に沿って説明する。

 

ブレトン・ウッズ体制(ポズサーはブレトン・ウッズ1としている)は第二次世界大戦後世界経済の安定を図ってつくられたもので、米ドルを基軸通貨とする金本位制が取られた。すなわち「金1オンスを35USドル」と定め、そのドルに対し各国通貨の交換比率を定めた。1960年代にFRBはドルを大量に発行したため、金との交換が不可能になり、1971年に米国政府は金との交換の停止を発表(ニクソン・ショック)、以降ドルは金と交換できない不換紙幣となった(以前の記事「ロシア経済制裁によるドル基軸通貨制の崩壊」参照)。これが現在の通貨制度、ブレトン・ウッズ2である。ブレトン・ウッズ3では再び金あるいは現物資産(コモディティ)に裏付けられた通貨となる。

 

ポズサーの関心は西側の経済制裁によるロシア産のエネルギー資源(石炭、石油、天然ガス)の需要の低下と価格の暴落である。彼は過去の経済危機から今後どのようなことが起こるか推察している。

 

1997年のアジア通貨危機では、1995年に米国が「強いドル」に政策転換したことがそもそもの原因になった。東南アジア諸国はドルペック制を採用していたが、ドル高のため外貨準備高がなくなり、ドルペック制を廃止して変動相場制へ移行した。ヘッジファンドの介入もあり、それまで東南アジアに投資していた米国の大手銀行は投資を停止、その結果それぞれの国の通貨は暴落した。

 

2008年のリーマンショックはサブプライム住宅ローンの返済停滞が原因だ。サブプライム住宅ローンは信用力が劣る人の為のローンだが、証券化して金融商品として資金が集められていた。証券化には複雑な金融工学が使われていてリスク評価が難しい構造となっていたが、格付け機関が高評価したために多くの投資家が購入した。サブプライム住宅ローンの返済停滞率が上昇してくると機関投資家は売却を始めたが、金融商品の評価はプロの投資家にも難しく、価格がどんどん下落し、投資銀行の含み損が増大した。これまでの類似のケースではFRBを中心とした大手銀行が救済したのだが、リーマン・ブラザースの場合は救済しなかったため、金融危機が発生した。

 

経済危機に対しては、止めなければ被害が拡大するので必ず救済が行われる。アジア通貨危機の場合は、IMFが救済したが、対価としてそれぞれの国に厳しい経済政策を強要した。リーマンショックの場合は、最終的には政府が公的資金の投入で落ち着いたが、対価として銀行制度改革(バーゼルIII)をすることになった。暴落したロシアのエネルギー資産はどのようにして救済されるのか?ポイントは、G7が経済制裁を行っているので、西側の公的機関、金融機関、関連組織は一切関わることができない点である。従って救済できる金融機関は唯一つ、それは中国人民銀行である。

コメント:FRBは政府機関ではなくて民間銀行である点に注意。

 

中国がロシアのエネルギー資源を購入する方法は2つあり、1つは中国人民銀行が米国債を売却して資金を調達する方法だ。この場合長期米国債の価格が下落するが、中国のエネルギー市場は安定化、インフレを制御できる。それに反して、西側はエネルギー不足と不況が続き、金利が上昇する。

2つ目の方法は人民元を発行して資金調達をする方法だ。人民元で石油等のエネルギー資源を購入することになるため、石油取引をドルに限定する現在のペトロダラーシステムに挑戦することになる。西側では1つ目の方法と同じことが起こる。

中国のロシア産エネルギー資源の購入の対価は、運賃率の上昇だ。中国人民銀行は購入したロシア産エネルギー資源の輸送と貯蔵(地上に貯蔵する場所がない場合は船舶内に貯蔵する)に船舶を用いる。人民元発行でコストを賄うことができるので、中国には負担はない。結果的に世界の船舶のかなりの部分を中国が専有することになるため、運賃率は上昇する。運賃率の上昇も西側のインフレ圧力になる。このように中国がロシア産エネルギー資源を購入して救済すれば、その対価はすべて西側負担になる。

最終的には、ロシア産エネルギー資源に裏付けられた強力な人民元が誕生する。そのときには米ドルは今よりずっど弱くなっているだろう。

 

以上がポズサーの予測である。もちろん西側が何もしないわけではないので、ドル、ユーロ、円も現物資産の裏付けのある通貨へ移行すると思われる。これがブレトン・ウッズ3だ。この論考ではあまり強調されていないが、米国を始め各国によるロシアの外貨準備の凍結により、現在の通貨体制のもとでは、国債や預金が没収される危険性があることが判明した。この方向からしても現物資産の裏付けのある通貨への移行は不可避と思われる。