ロシアのウクライナ侵攻後の西側の経済制裁発動後、ドル覇権の凋落が始まった。ウクライナ侵攻の直接の影響よりも、ドル基軸通貨制の崩壊の方が世界にずっと大きな影響を与えるだろう。
どの国も予期しない大きな為替変動に対応するため外貨が必要である。他国の中央銀行にその国の通貨の預金として外貨を準備する。ウクライナ侵攻に対する米国の経済制裁では、ロシアがFRBに預けているドル外貨準備を凍結して使えなくした。これは、経済以外の要因で通貨が使えなくなることを意味するため、通貨の信頼性を著しく傷つける。ユーロや円の場合も信頼性が低下するが、ドルは基軸通貨であるため、そのダメージは著しく大きい。クレディ・スイス(Credit Suisse)の金利ストラテジスト、ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏はいち早く1971年以降のドルを法定基軸通貨とするブレトン・ウッズ2の終焉を指摘した。
戦後確立したプレトン・ウッズ体制(ブレトン・ウッズ1)ではドルが基軸通貨であり、また金本位制でドルと金が交換可能、というものであった。しかしながら、ベトナム戦争等で米国政府の出費が増加したため、FRBはドルを大量に発行、金との交換が不可能になった。1971年に米国政府は金との交換の停止を発表(ニクソン・ショック)、以降ドルは金と交換できない不換紙幣となった。これが現在の通貨制度、ブレトン・ウッズ2だ。
1970年代の初めにサウジアラビアとの交渉で、米国はサウジアラビアの安全を保障するかわりに原油取引をドルのみで行う(ペトロダラーシステム)という取り決めを行った。原油取引のペトロダラーシステムは米国にとって大きなメリットがある。まず、原油取引のため他の国がドルを必要とするため、ドルの価値がその分上昇し、需要に見合うようにドルを発行するため、通貨発行益が増える。第二に、ペトロダラーシステムの付加価値により低い金利で国債を発行できる。このため多額の財政赤字が可能になる。第三に為替変動に左右されず原油取引ができる。このため米国の原油価格は世界で最も安定しているわけだ。
ペトロダラーシステムは米国の強い経済力の源泉といってよい。オイルダラー戦争(石油通貨戦争)は、米国の軍事攻撃の動機が、世界の主要な準備通貨として、また石油の価格を決定する通貨としての米国ドルの地位を力によって維持している、という仮説である。サウジアラビアを始めとするOPEC諸国の安全保障、という名目が必要ということもあって、中東領域、イラン、イラク、シリア米国は戦争を起こしてきた。とくに第二次イラク戦争はイラクのユーロ建て原油取引を阻止するために行われた、と考えられている(水野和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」)。
ところが、近年米国の国力が低下してきて、海外から撤兵する動きが加速している。このような状況下、今回のロシアへの外貨準備凍結により、基軸通貨としての適格性が崩れ、原油・天然ガス等大型の現物取引をドル以外通貨を用いる動きが一挙に加速した。
プーチンは、天然ガス(液化天然ガスは除く)の支払いをルーブル建てで行うようにEU諸国に要求した。EU諸国は反発しているが、ハンガリー等支払いに同意する国が現れ始めている。
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インドはロシアからの原油の輸入を考えているが、ドル建てではなく、ルーブルかルビー建てになる予定である。www.nikkei.com
中国は人民元建てでロシアから原油を購入しようとしている。またサウジアラビアとも人民元建ての原油取引の準備をしている。
www.bloomberg.co.jp