米国とEUは、インフレ抑制のため利上げと金融引締を行っているが、日本はどちらも行わず金融緩和を続けている。日本のインフレは軽度だから金融政策に変更はないのか、とぼんやり考えていたが、積極的な理由がある、という論説をみつけた。
まず、対照となる日本経済新聞の論説での説明。
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この論説では、記事のポイントとして、「インフレはいつまで続く?」「黒田総裁の本心は?」この論説はひどい。まず、物価上昇は31年ぶりで、人々が物価上昇に慣れていない点を指摘するものの、記事のポイントとして掲げたインフレの期限については触れていない。日銀の「ゼロインフレのノルム」というテクニカルタームを紹介して、インフレの期日を説明せずに人々のインフレについての認識が長年のデフレにより変わってしまった点に論点をずらしている。次に「インフレ目標」を誤解している。これは高橋洋一氏がよく指摘している点だが、インフレ目標はこの目標値を越えると緩和しすぎでインフレが問題になる、という意味だ。インフレ率を2%を目指して上げるように努力しているわけではなく、2%以下なら金融緩和をしてよい、ということだ。最後に、利上げ引き締めを行っている欧米と異なり、金融緩和を続けている日本にはこれ以上緩和政策をとれないため次の景気悪化に対応する余地がない、と締めくくっている。この点については、これから来る景気悪化の状況について説明がないので、意味不明だ。今回は次のグローバルマクロ・リサーチ・インスティテュートの論説との比較のため精読して問題点を同定したが、論題に惹かれて読んでも意味不明なことがほとんどなので、普段は日経の論説は読まない。日経は事実の報道だけピックアップして、その他はスルーするのがよい。
さてグローバルマクロ・リサーチ・インスティテュートは著者は不明だが、鋭い観察が時々掲載されるので、たまに見ている。日銀が利上げしない理由は、利上げによる政府の国債金利支払いが膨大な額になるため、と論じている。
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金利が上がれば債権者は金利収入が上がるが、同時に債務者の支払う金利が増える。国内最大の債務者は日本政府で債権者は銀行だが、預金者は預金を通して実質的に国債を保有していることになる。つまり預金している国民が債権者だ。2020年のデータで日本の政府債務はGDPの216%に達している。米国では利上げの結果、短期金利は4%あがっているので、もしも日本が米国と同じ利上げをすると、利払いはGDPの8%になる。このような財政上の政府負担を避けるため日銀は利上げしない、というのがグローバルマクロ・リサーチ・インスティテュートの主張である。つまり現在の金融システムを維持するのが目的だ。
また、このまま利上げせず金融緩和を続けるとインフレがより進行する。インフレが進行すると貨幣価値が目減りするので、債務の元本が目減りする、というメリットもある。日本の現状では、あまり効果がないように見えるが、イタリアのインフレ率は年率で50%を越えるので、政府債務の3分の1がなくなったことになる。
言われてみれば成程、と納得する。日経の論説と比較すると明確で不明瞭な点はない。ただ、日銀や政府が国内の市民生活や経済状況への配慮がない、とは考えられないので、介入して円の下支えをしているのだろう。日本の外貨準備は突出して大きい。
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グローバルマクロ・リサーチ・インスティテュートの著者は日本と日本人に対して、かなり冷ややかな視点を持っているので、米国人か2世ではないか、と思う。