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トランプ政権の貿易政策と暗号資産:ビットコインとステーブルコインが米国債需要を支える鍵


第二次トランプ政権の貿易政策は高関税とドル安誘導で米国内産業の競争力を強化して現在の米国が抱える様々な問題の解決を目指している。この政策については、スティーブン・ミラン Stephen Miranが "A User’s Guide to Restructuring the Global Trading System" で詳しく解説している。

しかしミランのプランは、キャッシュとしてのドルの価値を低下させるとドル建ての米国債の価値も下落し、米国政府の債務維持が困難になる、という根本的な問題がある。この点は日本国内ではほとんど報道されていないが、一部識者の間では常識のようだ(Miran提案の矛盾:ドル安政策と米国債需要維持は両立可能か?—主要経済メディア・専門家の批評まとめ - 精密医療電脳書)。上のミランの解説はこの問題点を曖昧にしているので、以前ミランの論点を再構成する論説を自分で書いた(マール・ア・ラーゴ合意の経済的矛盾点とは?トランプ政権の貿易政策構想を徹底分析 - 精密医療電脳書)。

ところがトランプ政権は、この問題を解決する巧妙な政策を用意している。それは暗号資産市場を米国債の需要維持に用いる、というものである。Matthew PiepenburgとAkeem Fosterの二人がトランプ政権の意図を見抜いている。なお、ミランは暗号通貨については触れていない(多分故意だと思う)。

 

 

Matthew Piepenburgの視点

 

Matthew PiepenburgはGoldSwitzerlandのパートナーで、次の談話でビットコインについての彼の洞察を述べている。

 


www.youtube.com

 

ビットコインは、投機資産として注目を集め、その金融システムへの影響が議論されている。ビットコインは当初、中央銀行や政府の介入を受けない分散型通貨として構想されたが、現在では主に投機的な資産クラスとして機能している。多くのスイスの若い富裕層は、ビットコインを短期的な資産増加の手段と見ており、利益を得た後は金や銀などの伝統的で安定した資産に移行する傾向がある。これは、ビットコインが長期的な価値保存手段としてではなく、富を増やすための一時的な手段として認識されていることを示している。

ビットコインと伝統的な金融システムの間には、ステーブルコインが重要な橋渡し役を果たしている。テザーやUSDCなどのステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨に価値を連動させており、その発行者は価値を維持するために米国財務省証券などを保有している。そのため暗号通貨エコシステムと伝統的な金融システムの間に予想外の依存関係を生んでいる。ビットコインの需要が高まると、ステーブルコインコインの需要も増加し、結果として米国財務省証券などへの投資も増える。ビットコインは表面的には分散型で独立しているように見えても、実際には伝統的な金融システムと強く結びついている。

 

Akeem Fosterの論説「デジタルゴールドラッシュ:ビットコインがどのようにアメリカの救世主になったか

 

THE DIGITAL GOLD RUSH: How Bitcoin Became America’s Unlikely Saviour”の中でPiepenburgと同様の主張をしている。該当部分を要約した。


財政安定性をもたらすステーブルコイン

ステーブルコインは、UST債券(米国債)などの資産準備に価値を連動させることで、安定した価値を維持するよう設計された暗号通貨である。例えば、発行されるトークンごとに特定量のUSTによって裏付けられることで、その価値の安定性が保たれる。USTがステーブルコインを裏付ける場合、暗号資産市場の拡大に伴ってUSTへの需要も増加する。
より多くの政府、企業、投資家が法定通貨をビットコインに転換することを検討するにつれ、ステーブルコインは伝統的な金融と暗号世界を結ぶ重要な架け橋となり、ビットコイン取引の主要な媒体となっている。ステーブルコインは投資家が暗号通貨の価格変動に直面することなく、ビットコインのポジションに出入りすることを可能にする。
例えば、ビットコインを購入する前に、法定通貨をUST裏付けのステーブルコインに転換するケースが考えられる。ビットコインの時価総額が大きくなれば、ステーブルコイン発行者がこれらの証券でトークンを裏付けるため、USTへの需要が高まり、債券オークションの失敗に関する懸念を和らげ、財政債務危機の解決に役立つ可能性がある。

ライアンとトランプはこの微妙な点を理解しており、ライアンは安定コインが米国政府債務の重要な買い手となることで、差し迫った財政危機を緩和できると主張している。問題は、ウォール街がいつこれに気付くかである。

 

トランプ・マジック:ステーブルコインのドル建て準備資産の義務化

 

ステーブルコインには、法定通貨担保型、暗号資産担保型、アルゴリズム型の3種類があり(ステーブルコインの仕組みと主要レイヤー1ブロックチェーン - Ethereum・Tron・BSC - 精密医療電脳書)、あとの2つはドル建て準備資産を必要としない。第二次トランプ政権は発足早々ステーブルコイン発行者に対して1:1の準備資産保有を義務とする法案(STABLE, GENIUS)を議会に提出した。法案成立後は法定通貨担保型ステーブルコインのみになる。

 

Piepenburgにならって「伝統的な金融システム」と「暗号資産エコシステム」に分けて考えよう。「伝統的な金融システム」で流通しているのが従来からのドルで「暗号通貨エコシステム」で流通しているのがステーブルコインで、これはドルにペッグしているいる。ドルの価値は「伝統的な金融システム」内部で決まり、「暗号資産エコシステム」での経済活動の影響を受けない。米国債などのドル建て準備資産の需要は「伝統的な金融システム」のドルの価値で変動する:ミランのドル安誘導政策でドルの価値が下がると当然準備資産の需要は低下する。しかしここで「暗号資産エコシステム」が十分大きくステーブルコインの需要が高いと、1:1の準備資産保有が義務付けられているので準備資産の需要が発生し、ドル安誘導政策での需要低下を相殺することができる。ステーブルコインが流通する「暗号通貨エコシステム」と、従来のドルが流通する「伝統的な金融システム」は独立していてお互いに影響しないが、準備資産は共通、という点が重要である。

 

ベッセント財務長官のコメント

 

ベッセント財務長官は、暗号資産・ステーブルコインで米国政府証券への需要を最大2兆ドル創出可能としている。暗号資産・ステーブルコイン推進の目的の一つが米国債への需要創出であることを、米政府として初めて公式に認めた発言である。

https://x.com/ShortShort_News/status/1920642818390872151

 

暗号資産市場予測

 

暗号資産が米国の最重要経済政策であることから、暗号資産市場の予測は簡単だ。

 

短中期

米国債需要維持のための暗号資産市場拡大が米国政府の方針であるため、ビットコインを中心にして暗号資産の価値は上昇、市場は拡大する。ストラテジー(旧マイクロストラテジー)やメタプラネットが大量のビットコインを購入しているのは、Piepenburgらと同様米国政府の意図をいち早く見抜いたためだろう。

日本は米国の同盟国なので、暗号資産市場支援の政策が早急に取られるはずだ。2026年中に法改正即実施の予定である(仮想通貨税制改正「いつから?」申告分離課税・金商法適用の影響、注目点まとめ)。

 

中長期

米国政府はステーブルコインでドル覇権の継続を目指しているので、将来的には「伝統的な金融システム」をステーブルコインが従来のドルを置き換えることになる。そのときには米国債需要維持のための暗号資産の役割は終了する。しかし暗号資産の中でPoS/DPoSタイプのレイヤー1ブロックチェーンはステーブルコイン流通の基盤インフラなので、実需として残る(ステーブルコインの仕組みと主要レイヤー1ブロックチェーン - Ethereum・Tron・BSC - 精密医療電脳書)(デジタル社会における暗号資産の価値 - 精密医療電脳書)。ビットコインが金と同様の資産としての価値を確立しているのか、Piepenburgの言うようにバブル的価値しかないのかは、現時点ではわからない。

なお、トランプ大統領は米国の準備資産として米国発暗号資産を推奨している。この点に加え技術的優位性を考慮するとレイヤー1ブロックチェーンの中でもソラナSolanaとスイSUIが重要で、市場評価にも現れている。