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シリコンバレー銀行破綻 ~ 続き(2):BTFP

 

以前のシリコンバレー銀行関連の記事。

シリコンバレー銀行急速破綻の原因 - 精密医療電脳書

シリコンバレー銀行破綻 ~ 続き - 精密医療電脳書

 

シリコンバレー銀行の破綻は他の銀行へ直接影響を与えることはなかった

USA Today[After SVB collapse, almost 190 new banks could fail, says new study]やForbes[Why 186 Other Banks Could Go The Way Of Silicon Valley Bank]で紹介された調査によると、連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な金利引き上げによって、国債や住宅ローン担保証券などの銀行資産の価値が低下したため、186の銀行が破綻する危険性があるらしい。この調査では、たとえ預金者の半数しか資金を引き出さないとしても、破綻したシリコンバレー銀行(SVB)と同じ運命をたどる可能性があると指摘している。ただし、SVBの破綻が他の銀行に直接影響を与えた、という話はない。
Reuters[Which companies are affected by SVB collapse? | Reuters]は、SVBの破綻によって影響を受ける企業のリストを提供しているが、銀行については言及していない。このリストには、破綻した暗号貸金業者BlockFi Inc、グローバル決済プロバイダーPayoneer Global Inc、バイオテクノロジー企業Vir Biotechnology、住宅用ソーラー企業Sunrun Inc、医薬品開発企業Ginkgo Bioworks Holdings Inc.が含まれている。これらの企業はSVBに現金預金や信用枠を有しており、中には同銀行に保護されていない資金を有している企業もあった。
したがって、シリコンバレー銀行の破綻が他の銀行に直接影響を与えることはなかったと思われる。

 

シリコンバレー銀行破綻にもかかわらずFRBは利上げを行った

一般的に銀行破綻はFRBの金利政策に影響を与える可能性があり、シリコンバレー銀行の破綻後、FRBの銀行に対する監督や規制に対する監視を強め、銀行の規制や監視を強化するよう求める声があがった[Fed criticized for missing red flags before bank collapse ][The Fed raises interest rates again despite the stress in banking]。また、銀行の破綻は銀行や投資家の損失につながり、国債や住宅ローン担保証券などの銀行資産の価値に影響を与え、金融システムに広範な影響を与える可能性がある[Five Ways Banking Turmoil Will Impact the Fed’s Decision][After Two Historic US Bank Failures, Here’s What Comes Next]。しかし、FRBは、シリコンバレー銀行の破綻後、銀行システムへの潜在的ストレスにもかかわらず、利上げを続けた(0.25%の利上げ、利率は5%をすこし切る程度になった)[The Fed raises interest rates again despite the stress in banking][The Federal Reserve is raising interest rates again]。

 

ところが新しい制度Bank Term Funding Program(BTFP)をつくって連邦準備制度のバランスシートを増やしている

利上げを行うと同時に、預金保護のため新しい制度をFRBは創った。それがBank Term Funding Program(BTFP)である。BTFPは米国の預金取扱機関に緊急流動性を提供するため2023年3月にFRBが創った緊急融資プログラムである[Bank Term Funding Program: Definition, Why It Was Created]。このプログラムは、銀行、貯蓄組合、信用組合などの適格な預金取扱機関に対し、最長1年間の融資を提供し、すべての預金の確保を支援する。融資は、米国債、政府機関債、住宅ローン担保証券、その他の適格資産などの担保によって裏付けられる[Bank Term Funding Program]。すなわち、BTFPは適格と認められた預金取扱機関に追加の資金を提供することで、アメリカの企業や家計を支援することを目的としている[The Fed - Bank Term Funding Program]。

BTFPの融資は米国財務省の為替安定化基金の裏付けがある(最大250億ドル)[1]。BTFP開始から1週間で連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシートは3000億ドル増加し(下図)、各金融機関はBTFPから119億ドル以上を借り入れた。これらの行動が量的緩和ではないか、という議論が起こっている[bitcoinmagazine]。しかし、BTFPはマネーサプライを増やすことを目的としていないため、量的緩和ではない、というのがFRBの主張である[The Fed - Bank Term Funding Program][Bank Term Funding Program]。

FRBのバランスシート。3月15日から1週間で3000億ドル増加した。FRBのバランスシートはピーク時に半分に回復している。

素人目には、利上げをして引き締めると同時に量的緩和をする、という泥縄的アクションをしているようにしか見えないのだが。まあ、中央銀行と財務省がちゃんとしていれば現在のような事態を招いていないわけだから、彼らの行動が泥縄でも不思議はない。