精密医療電脳書

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量子ビット

量子コンピュータに関して、ようやく何が理解を妨げているのかわかった。現在の情報科学における情報の基本単位はビットだが、量子コンピュータの場合情報の基本単位は、量子ビットになる。量子ビットはビットと違って、ヒトの脳でイメージをつくるのが極めて難しい。

 

ビット

ビット bit は「情報理論、コンピューティング、デジタル通信における情報の基本単位で、二進数の1桁のことである」である(ウィキペディア)。また1ビットの情報は「二進数の1桁として論理値を表し、2つの値のうち1つのみを持つ」。通常は2進法の1または0となる。コンピュータは電気回路(極初期以外は半導体)で作られており、電流が流れる流れないという2つの状態を利用しているため、二進数であるビットが情報の基本単位になっている。

 

量子ビット

古典ビットは2状態であるのに対し、量子ビットは、そのような2状態の量子力学的重ね合わせ状態もとることができる。すなわちビットは0と1の状態しかないが、量子ビットは0と1と、その重ね合わせの状態を取れる、ということである。これは簡略化された定義で、重ね合わせの状態は、観測したときに0あるいは1となる確率という情報を含んでいる。またこの確率は波の性質があり、位相という情報も含んでいる。

量子の重ね合わせについては、光子に関する実験がわかりやすい。2つのスリットに光子を一つずつ入射し、スクリーンでその光子の検出位置を記録する。最初は、スクリーン上のランダムな位置で検出されるように見えるが、光子の数が増えるにつれ、その光子の分布に明確な縞模様が現れてくる。光子には量子としての性質があり、左側のスリットを通過した状態(L)と、右側のスリットを通過した状態(R)の「重ね合わせ」状態となる。その2つの状態の干渉により、スクリーン上で観測される「確率」が変化する。確率が変化するのは、その確率に波の性質があり、確率の値(波長に相当する)だけでなく位相があるためである。LとRの確率波の位相が異なるため、打ち消したり増強したりして縞模様が現れる。位相を利用したよく知られている技術にノイズキャンセリングヘッドフォンがある。ノイズキャンセリングヘッドフォンでは、遮断したい騒音とは逆位相の音を作り出して騒音を消去している。

要するに、量子ビットは観測したときに0あるいは1となる確率とその確率波の位相という情報である。基本単位自体の情報がビットより多いから、量子コンピュータの計算機性能が高いのは当然だろう。ビットは2進数で表されるが、人間は日常生活で10進数と12進数を使っているため、2進数はダウンサイジングになり、理解するのはたやすい。ところが量子ビットの方は、「観測したときに0か1になる確率波」であるためなかなか日常感覚で捉えることができない。量子コンピュータに関しては未だプログラミング言語ができていないが、プログラミング言語ができたとしても、利用するプログラマーが、量子ビットを理解していないと量子コンピュータの性能を活用したプログラムはかけないだろう。そして量子ビットを、一通りの理解ではなくそのコンセプトを操ることができるレベルの理解ができる人はかなり少ないのではないか、と思われる。また情報量に関してもコンセプトから改める必要があるだろう。現在私達はビットにより情報量を把握している:たとえばコンパクトディスク1枚分の情報量は650MB(メガバイト)だが、これは650x10,000,000x8ビットになる(1バイトは8ビットである)。情報量もビットではなく量子ビットで理解する必要があるだろう。

量子ビットは確率波であるため、そのイメージを説明することは極めて難しい。そのため専門家が丁寧に解説しても、どうしてもデフォルメされた説明になってしまう(これは数式を使った説明でも同じ)。量子コンピュータは「観測したときに0か1になる確率波」を操るコンピュータだということを念頭において、彼らのデフォルメされた説明を脳内で修正する必要がある。今量子コンピュータの関する書籍を再読しているが、ようやくこの修正ができるようになったようで、一応納得しながら読み進めている。