精密医療電脳書

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Single-molecule mutation sequencing, SMM-seq

イルミナ社やサーモフィッシャー社の次世代シークエンサー、すなわち超並列シークエンサーの読み取りエラーを極限まで減らす技術にdupex sequencingがある。報告は2012年でだいぶ前の技術だが、最近ローリングサークル増幅(rolling circle amplification, RCA)を用いた変法としてsingle-molecule mutation sequencing (SMM-Seq) が考案された。

 

Duplex sequencing

次世代シークエンサーで塩基配列の読み取りエラーを除去する標準的な技術は分子バーコード技術である。分子バーコード技術で次世代シークエンサーの実験操作段階、すなわちPCR増幅とシークエンサーのよる読み取り、での誤りはほぼ完全に除去できるようになった。しかし鋳型DNAにもともとある脱アミノ化などのDNA損傷による塩基置換を修正することはできない。duplex sequencingはDNA損傷による塩基置換と真の変異を区別することができる。

図1.Duplex sequencing(ウィキペディアより)。

真の変異は2つのDNA鎖に共通して出現するが、DNA損傷による塩基置換の場合は、単鎖にのみ現れる。Duplex seqeuencingでも分子バーコードを用いて個々のDNAを標識するが、それに加えて各DNA分子の2つの一本鎖を識別する工夫を施している。

図1はdeplex sequencingの原理を示している。Duplex sequencingで用いるアダプターは、鋳型DNA付着端の反対側の2つの鎖の配列が異なり(赤と青で示されている)、いわゆる”Y字型”をとっている(図1トップ)。異なる分子バーコード(図1ではtag sequence 1 (α)とtag sequence 2 (β))を持つ2種類のアダプターが各鋳型DNA分子の両端に結合する。PCR反応をおこなうと鋳型DNAはアダプターの配列で標識されるが、2つのDNA鎖は異なる様式で標識される。すなわち、一つの鎖は「赤の配列、tag sequence 1 (α)、鋳型DNA,tag sequence 2 (β)、青の配列の順」で、反対側の配列は「青の配列、tag sequence 1 (α)、鋳型DNA,tag sequence 2 (β)、赤の配列」の順で標識される。そのため2つのDNA鎖を識別することが可能なわけだ。2つのDNA鎖で共通する塩基置換は変異、一つのDNA鎖にしか出現しない塩基置換はDNA損傷によるものとなる。

 

SMM-seq

SMM-seqの基礎となっている技術は、新しくTag DNA polymeraseから開発された強力なstrand displacement activity(鎖置換活性)を持つ耐熱性DNA合成酵素 strand displacement polymerase HS (BIORON Diagnostics GmbH, Germany)である。Duplex sequencingの場合は、PCRの最初のサイクルで、塩基置換のないDNA鎖にエラーが入って両鎖ともに同じ塩基置換が入る低確率の可能性がある。SMM-seqでは、ローリングサークル増幅 rolling circle–based linear amplification (RCA)で、一分子の鋳型DNAから複数のコピーを作り、それぞれのコピーをPCR増幅する。複数の分子の増幅産物で確認するので、低確率のエラーも検出できる。

図2.SMM-seq。

図2でSMM-seqの原理を示した。UMI (unique molecular identifier) が分子バーコードのことである。RCAを行うためにヘアピン型の構造をしたアダプターを使っている。RCAの後P5とP7の2つのプライマーでPCR増幅をおこなう。Duplex sequencingと同様で、2つのプライマー配列と分子バーコード配列の順序で2つのDNA鎖を識別できる。おなじ分子バーコードを持つ配列全てに出現する塩基置換のみが変異である。

 

意見

BIORON Diagnosticsのstrand displacement polymerase HSはTaq DNA polymerase由来で、高温で反応ができるため高次構造の影響を受けにくく、円滑にDNA合成が行われる。そのためSMM-seqが技術的に可能になったのだと思う。Duplex sequencing、SMM-seqともに核酸酵素学を限界まで使った技術だが、現実の解析対象にはオーバースペックで、このレベルの精度は不要である。医学的に高精度解析が必要な対象のひとつに血中腫瘍DNAがあるが、duplex sequencingやSMM-seqが必要なほど低頻度ではなく、分子バーコード技術を用いたシークエンシングで十分だ。

 

文献

Duplex sequencing

Schmitt, M.W., Kennedy, S.R., Salk, J.J. et al. Detection of ultra-rare mutations by next-generation sequencing. Proc Natl Acad Sci USA, 2012: 109, 14508-14513. DOI: 10.1073/pnas.1208715109

SMM-seq

MASLOV, A.Y., MAKHORTOV, S., Sun, X. et al. Single-molecule, quantitative detection of low-abundance somatic mutations by high-throughput sequencing. Science Advances, 2022, 8, 8, eabm3259. DOI: 10.1126/sciadv.abm3259

Thermostable displacement enzyme

K.B., Barsova, E.V., Fradkov, A.F. et al. A strong strand displacement activity of thermostable DNA polymerase markedly improves the results of DNA ampli cation of DNA amplification. BioTechniques 2014:7,81-87. DOI: 10.2144/000114198