精密医療電脳書

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2025年米国臨床腫瘍学会年会乳癌関連演題のAIによる分析(改訂):3つの主要モデルの比較

2025 ASCO Annual Meetingの演題リストの抽出に使ったプログラム(自家製)にバグがあり、重要演題を落としていることに気がついた。そのため乳癌関連演題分析をやり直した。以前の分析はこちら。Anthoropic, Google, Open AIの最新モデルClaude 4 Sonnet, Gemini 2.5 Pro, GPT-4.1について比較した。

 

 

分析のアウトライン
 

演題抽出


2025年米国臨床腫瘍学会年会の演題を"Breast Cancer"をキーワードに検索し、829演題を得た。そのうち発表には選ばれていない演題(Publication only)を除くと、学会発表演題として422演題が残った。解析対象はこの422演題である。

 

分析方法


直近の臨床腫瘍学関連の腫瘍雑誌の情報をもとに本年度の学会の傾向を主要なAIに分析させた。Chat bot はMonica,知識ソースは「学術(Google Scholar)」を選択。今回使用したモデルはClaude 4 Sonnet, Gemini 2.5 Pro, GPT-4.1である。それぞれAnthoropic, Google, OpenAIの最新モデルだ。プロンプトは以下の通り。

 

これは本年度の米国臨床腫瘍学会年会の乳癌関連の演題です。この演題全体を読んで、乳癌専門医の立場から本年度の年会の傾向を述べてください。過去の情報としては2023,2024年にNew England Journal of Medicine, Lancet , Lancet Oncology, Journal of Clinical Oncologyに発表された論文が有益です。

 

分析結果概要


それぞれのモデルが抽出した学会のトピックスは以下の通りである。最初の5つのトピックス、すなわち主要トレンドは3つのモデル(Claude 4 Sonnet, Gemin 2.5 Pro, GPT-4.1)で完全に一致した:「ADC」、「ctDNA」、「内分泌療法耐性克服」「TNBC治療多様化」「早期乳癌における治療最適化」である。

 

Claude 4 Sonnet

 

1. 抗体薬物複合体(ADC)の多様化と最適化
・Trastuzumab deruxtecan(T-DXd)の適応拡大が顕著
・Sacituzumab govitecanの併用療法開発
・新規ADCの臨床開発加速(TROP2標的、HER3標的等)

2. ctDNA(循環腫瘍DNA)の臨床実装
・分子残存病変(MRD)モニタリングの標準化
・治療効果予測バイオマーカーとしての活用
・個別化治療戦略への組み込み

3. 内分泌療法耐性克服への新戦略
・次世代SERD(Selective Estrogen Receptor Degrader)の開発
・CDK4/6阻害薬耐性後の治療選択肢拡大
・PI3K/AKT経路阻害薬との併用療法

4. トリプルネガティブ乳癌(TNBC)の層別化治療
・免疫チェックポイント阻害薬の最適な使用法確立
・PARP阻害薬との併用戦略
・新規標的治療薬の開発(TROP2-ADC等)

5. 早期乳癌における治療最適化
・治療強度の個別化(de-escalation戦略)
・ゲノム検査に基づく治療選択の精緻化
・補助療法期間の最適化

 

Gemini 2.5 Pro

 

1. 抗体薬物複合体(ADC)のさらなる進化と適応拡大
・既存ADCの適応拡大と深化:
・Trastuzumab deruxtecan (T-DXd): 
・Sacituzumab govitecan (SG): 
新規ADCの開発ラッシュ:

2. ctDNA(循環腫瘍DNA)の臨床実装の加速
・微小残存病変(MRD)の検出と再発予測: 
・治療効果判定と耐性機序の解明:
・個別化治療への応用: 

3. 内分泌療法の進化と耐性克服戦略
・新規経口SERD(選択的エストロゲン受容体分解薬)の開発: 
・CDK4/6阻害薬耐性後の治療: 。
・術後補助療法におけるCDK4/6阻害薬:
・ER-low乳癌: 

4. トリプルネガティブ乳癌(TNBC)における治療戦略の多様化
・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の最適化: 
・PARP阻害薬: 
・ADCの活用: 
・新規標的とバイオマーカー: 

5. 早期乳癌における治療の個別化(De-escalationとEscalation)
・ゲノム検査に基づく治療選択:
・放射線治療の省略・短期化: 
・術前療法の反応に基づく治療調整: 
・センチネルリンパ節生検(SLNB)の適応縮小: 

6. 脳転移に対する治療開発の進展

7. 遺伝性乳癌、リスク評価、予防

8. 患者報告アウトカム(PRO)、QOL、サバイバーシップ

9. AI(人工知能)とデジタル技術の活用

10. 健康格差(Disparities)とグローバルオンコロジー


GPT-4.1

 

1. 抗体薬物複合体(ADC)時代の本格到来と適応拡大

・T-DXd
・Sacituzumab govitecanや新規TROP2/HER3/Nectin-4/B7-H4標的ADCの複数開発

2. ctDNA(循環腫瘍DNA)とリキッドバイオプシーの臨床応用加速

・MRD(微小残存病変)検出による術後再発リスク層別化、
・治療効果判定や耐性変異(ESR1等)のリアルタイム検出、個別化治療への組み込み。
ctDNAダイナミクスやHRD評価の臨床的意義の検証。

3. 内分泌療法耐性克服と新規経口SERD・CDK4/6阻害薬戦略の進展

・新規経口SERD(elacestrant, imlunestrant, vepdegestrant等)の単剤・併用療法開発・CDK4/6阻害薬耐性後の治療アルゴリズム
・補助療法でのCDK4/6阻害薬(NATALEE, monarchE等)の長期成績とバイオマーカー解析

4. トリプルネガティブ乳癌(TNBC)治療の多様化と層別化
・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の最適化(ASCENT-04/KEYNOTE-D19, KEYNOTE-522関連)
・PARP阻害薬やADCとの併用/逐次治療、バイオマーカー(TILs, HRD, ImPrintTN等)探索。
・新規分子標的・層別化治療の開発

5. 早期乳癌の治療個別化(de-escalation/escalation)

ゲノムアッセイ(Oncotype DX, MammaPrint, HER2DX等)による治療選択の精緻化。
術前療法反応に基づく治療強化・省略戦略(neoCARHP, SHARE, SLNB省略等)。
放射線治療の短縮・省略、QOL重視の治療設計

6. 脳転移・AYA世代・性別多様性などアンメットニーズへの挑戦

ADCや分子標的薬の脳転移への有効性検証(TUXEDO-3, REIN, SHR-A1811等)
AYA世代やトランスジェンダー、マイノリティの診療格差是正

7. AI・デジタル病理・患者報告アウトカム(PRO)など新技術の応用
AIによる画像・病理診断、予後予測モデルの開発(Ataraxis AI, GUIDE-G, PRESCIENTai等)
PRO・QOL評価、長期サバイバーシップ、心毒性・CIPN等の支持療法研究

8. 健康格差・社会的要因の是正とグローバル展開
人種・社会経済的格差、グローバルオンコロジー、経済的毒性(financial toxicity)対策の演題が増加

 

AIによる傾向分析の例 - Gemini 2.5 Proの出力

 

1. 抗体薬物複合体(ADC)のさらなる進化と適応拡大


ADCは乳癌治療のパラダイムを大きく変革し続けています。

 

既存ADCの適応拡大と深化:

Trastuzumab deruxtecan (T-DXd): HER2低発現乳癌(DESTINY-Breast04試験以降)におけるエビデンスの集積(例:DESTINY-Breast06 [#1013])、HER2陽性乳癌における一次治療での位置づけ(例:DESTINY-Breast09 [LBA1008])、脳転移に対する有効性(例:REIN試験 [#1017])など、その役割は拡大し続けています。HER2超低発現といった新たなカテゴリーも模索されています。
Sacituzumab govitecan (SG): トリプルネガティブ乳癌(TNBC)における術前療法(例:NeoSTAR試験 [#511])や、PD-L1陽性進行TNBCに対するペンブロリズマブとの併用療法(例:ASCENT-04/KEYNOTE-D19試験 [LBA109])など、新たな治療戦略が検討されています。


新規ADCの開発ラッシュ:

HER3を標的とするPatritumab deruxtecan(例:脳転移に対するTUXEDO-3試験 [#2005])やDB-1310 [#3000]。
Nectin-4を標的とするSHR-A2102 [#107]。
B7-H4を標的とするEmiltatug ledadotin [#3009, #TPS1141]。
その他、多数の新規TROP2標的ADCや異なるペイロードを持つADCが開発初期段階から後期段階まで多数報告されており(例:JSKN003 [#1028], IBI354 [#1029], ESG401 [#1044], IBI130 [#1102])、ADC間の逐次治療戦略やバイオマーカー探索も重要なテーマです。

 

2. ctDNA(循環腫瘍DNA)の臨床実装の加速


ctDNAの有用性は過去数年で急速に認知され、臨床応用への期待が高まっています。

 

微小残存病変(MRD)の検出と再発予測:

早期乳癌術後のMRDモニタリングによる再発ハイリスク患者の同定や、治療介入のタイミングを計る研究(例:#1010, #3055, #TPS620, #TPS621, #TPS622)が進んでいます。


治療効果判定と耐性機序の解明:

進行・再発乳癌における治療効果の早期判定や、薬剤耐性変異(例:ESR1変異)の検出ツールとしての活用が拡大しています(例:#1011, #1047, #1072)。


個別化治療への応用:

術前療法中のctDNA動態評価(例:I-SPY2 EOP試験 [#3008], NeoCircle試験 [#3057])や、HRD評価(例:SWOG S1416試験 [#1012])など、治療選択や層別化への応用が期待されます。

 

3. 内分泌療法の進化と耐性克服戦略


ホルモン受容体陽性(HR+)乳癌における内分泌療法は依然として治療の根幹ですが、耐性克服が大きな課題です。

 

新規経口SERD(選択的エストロゲン受容体分解薬)の開発:

Fulvestrantに続く新規経口SERD(例:Elacestrant [EMERALD試験など]、Imlunestrant [#1001, #1060]、Vepdegestrant [LBA1000])の単剤および併用療法の開発が活発です。これらの薬剤は、ESR1変異陽性症例での有効性も注目されています。


CDK4/6阻害薬耐性後の治療:

CDK4/6阻害薬が標準治療となる中で、耐性後の治療戦略が急務です。PI3K阻害薬(例:Inavolisib [INAVO120試験, #1003])、AKT阻害薬(例:Ipatasertib [FINER試験, LBA1005])、他の標的薬との併用療法が多数検討されています。


術後補助療法におけるCDK4/6阻害薬:

NATALEE試験(Ribociclib)やmonarchE試験(Abemaciclib)の結果を受け、より広範な患者層への適応や長期的なベネフィット、バイオマーカーに関するサブ解析(例:#515, #516, #520)が報告されています。


ER-low乳癌:

ER低発現乳癌の生物学的特性や治療戦略に関する研究も進んでいます(例:#521, #1071)。

 

4. トリプルネガティブ乳癌(TNBC)における治療戦略の多様化


予後不良なTNBCに対する治療開発は依然として最重要課題の一つです。

 

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の最適化:

KEYNOTE-522試験以降、術前・術後療法におけるICIの役割が確立しつつありますが、最適な併用薬や投与期間、バイオマーカー(PD-L1、TILsなど)の検討が継続されています。進行・再発TNBCにおいても、一次治療でのICI併用療法(例:ASCENT-04/KEYNOTE-D19 [LBA109])のデータが注目されます。


PARP阻害薬:

BRCA変異陽性TNBCに加え、HRD陽性TNBCへの適応拡大や、ICIや他の薬剤との併用療法が模索されています(例:ABCSG 45試験 [#510])。


ADCの活用:

SGに加え、他の新規ADCもTNBCを対象とした開発が進んでいます。


新規標的とバイオマーカー:

TNBCの多様性を反映し、アンドロゲン受容体やその他の分子標的を狙った治療法や、個別化のための新たなバイオマーカー探索(例:ImPrintTN signature [#554])が活発です。

 

5. 早期乳癌における治療の個別化(De-escalationとEscalation)


患者ごとの再発リスクに応じた治療の最適化(治療強化または治療省略)が大きな流れです。

 

ゲノム検査に基づく治療選択:

Oncotype DX、MammaPrint、HER2DXなどのゲノムアッセイを用いた化学療法の要否判断(例:#501, #TPS615)や予後予測がさらに浸透しています。


放射線治療の省略・短期化:

低リスク患者に対する寡分割照射や全乳房照射の省略(例:SHARE試験 [#514], NRG-BR007 [#TPS625], ROSALIE [#TPS628])に関する研究が進んでいます。
術前療法の反応に基づく治療調整: 術前療法でpCRが得られなかった患者に対する治療強化(例:#TPS616)や、逆に良好な反応を示した患者に対する治療のde-escalation(例:neoCARHP試験 [LBA500]、手術省略の試み [#TPS630])が検討されています。
センチネルリンパ節生検(SLNB)の適応縮小: 特定の条件下でのSLNB省略の可能性も探求されています(例:#580)。

 

6. 脳転移に対する治療開発の進展


脳転移はアンメットメディカルニーズの高い領域であり、新規薬剤の脳移行性と有効性が注目されています。

T-DXd、Patritumab deruxtecan [#2005]、SHR-A1811 [#1017]など、複数のADCが脳転移に対する活性を示唆するデータを報告しています。
その他、新規低分子薬やICI併用療法の脳転移への効果も検証されています(例:#2012, #TPS1134)。

 

7. 遺伝性乳癌、リスク評価、予防

 

BRCA1/2以外の遺伝性乳癌関連遺伝子(例:PALB2, ATMなど)の意義解明と臨床対応(例:#10509, #10622)。
多遺伝子リスクスコア(Polygenic Risk Score: PRS)の乳癌発症リスク予測への応用と臨床的有用性の検証(例:#10512, #10544)。
遺伝性乳癌患者における治療選択(例:ホルモン療法 [#10506])や予防戦略。

 

8. 患者報告アウトカム(PRO)、QOL、サバイバーシップ


治療成績の向上に伴い、患者さんのQOLや長期的なサバイバーシップの課題への関心が高まっています。

治療選択におけるPROの統合(例:EMBER-3試験のPROデータ [#1001])。
化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)、心毒性、認知機能障害、ホットフラッシュなどの副作用対策と支持療法の開発(例:#12002, #12009, #12018, #12063)。
長期サバイバーにおける晩期合併症や二次がんのリスク評価(例:#1642)。

 

9. AI(人工知能)とデジタル技術の活用


AIは画像診断、病理診断、予後予測など多岐にわたる応用が期待されています。

病理画像解析によるHER2スコアリングの自動化・客観化(例:#1078, #1116)、TILs評価(例:#551)、pCR予測(例:#593)。
予後予測モデルの開発(例:Ataraxis AI [#549])。
NCCNガイドラインの動的可視化プラットフォーム(例:GUIDE-G [#9027])。

 

10. 健康格差(Disparities)とグローバルオンコロジー


乳癌の罹患・治療アクセス・予後における人種間・地域間・社会経済的格差の是正は喫緊の課題です。

特定の人種・民族における遺伝的背景、治療反応性、アウトカムの差異に関する研究(例:#527, #539, #602, #1036, #11147)。
AYA世代、トランスジェンダー・ジェンダー多様性のある人々など、マイノリティ集団における乳癌診療の課題(例:#567, #1516)。
低・中所得国における乳癌検診、診断、治療アクセスの改善に向けた取り組み(例:#1528, #1539, #1604)。
経済的毒性(Financial Toxicity)の問題提起と対策(例:#518, Education Session)。

 

過去の主要論文との連続性と発展


本年のASCOの演題は、過去2-3年の主要医学雑誌で報告されたランドマーク試験の成果を基盤とし、それをさらに発展させるものが多数見られます。

DESTINY-Breast04試験(NEJM 2022)で確立されたHER2低発現乳癌に対するT-DXdの有効性は、今回のDESTINY-Breast06試験(#1013)などでさらに詳細なデータやサブグループ解析が報告され、実臨床への浸透を加速させています。
EMERALD試験(JCO 2023)で示された経口SERD elacestrantの有効性は、他の経口SERD開発(例:Imlunestrant [#1001], Vepdegestrant [LBA1000])や併用療法(例:ELEVATE試験 [#1070, #1079])の活発化につながっています。
KEYNOTE-522試験(NEJM 2022)による早期TNBCへのペムブロリズマブ導入は、進行・再発TNBCにおけるICI併用戦略(例:ASCENT-04/KEYNOTE-D19 [LBA109])や、KEYNOTE-522レジメンのさらなる最適化(例:#592, #609)に関する研究を促進しています。
NATALEE試験(NEJM 2023)で示された術後補助療法としてのRibociclibの有用性は、サブグループ解析(#516)やリアルワールドに近い状況での検証(Adjuvant WIDER [#TPS617])へと繋がっています。
ctDNAに関しても、これまで多くの基盤研究や初期臨床試験が報告されてきましたが(Lancet Oncol, JCOなど)、本年のASCOでは臨床実装に向けた大規模な検証や多様な状況での応用研究が数多く発表されており、実用化が目前に迫っていることを感じさせます。

 

総括


2025年のASCO乳癌領域の発表は、**「個別化医療のさらなる深化」と「新規治療モダリティによる治療成績の飛躍的向上」**を強く印象づけるものです。特にADCとctDNAは、乳癌診療のほぼ全てのステージ、全てのサブタイプにおいて、診断・治療・予後予測のあり方を根本から変えようとしています。
HR+乳癌においては内分泌療法の耐性克服、TNBCにおいては更なる治療標的の探索と個別化、HER2陽性乳癌においては治療の最適化とde-escalationが引き続き重要なテーマです。
また、治療成績の向上に伴い、QOL、サバイバーシップ、健康格差といった、より包括的な患者ケアへの視点も重要性を増しています。これらの多岐にわたる研究成果が、近い将来、日常臨床に還元され、乳癌患者さん一人ひとりにとって最良の医療が提供されることに繋がることを期待します。