精密医療電脳書

分子標的薬 コンパニオン診断 肺がん LLM ブロックチェーン

2025年米国臨床腫瘍学会年会肺癌関連演題のAIによる分析

米国臨床腫瘍学会年会(2025 ASCO Annual Meeting)が5月30日から開催される。学会発表関連のマテリアルはライセンス保護されているため、LLMで講演内容は分析できない。ここでは公開されている学会演題をLLMで分析することにした。目的は現在のLLMの性能を専門領域で試すことである。

 

 

分析のアウトライン

 

演題抽出

2025年米国臨床腫瘍学会年会の演題を"Lung Cancer"をキーワードに検索し、405演題を得た。そのうち発表には選ばれていない演題(Publication only)を除くと、学会発表演題として187演題が残った。解析対象はこの187演題である。

 

分析方法

直近の臨床腫瘍学関連の腫瘍雑誌の情報をもとに本年度の学会の傾向を主要なAIに分析させた。chat bot はMonica,知識ソースは「学術(Google Scholar)」を選択。プロンプトは以下の通りだ。

 

これは本年度の米国臨床腫瘍学会年会の肺癌関連の演題です。この演題全体を読んで、肺癌専門医の立場から本年度の年会の傾向を述べてください。過去の情報としては2023,2024年にNew England Journal of Medicine, Lancet Oncology, Journal of Clinical Oncologyに発表された論文が有益です。

 

分析結果概要

それぞれのモデルが抽出した学会のトピックスは以下の通りである。

 

Claude 4 Sonnet
1. 周術期治療のパラダイムシフト
2. 分子標的治療の高度な細分化
3. 抗体薬物複合体(ADC)の急速な台頭
4. 小細胞肺癌(SCLC)治療の革新
5. 人工知能(AI)と精密医療の融合
6. 免疫療法の最適化と新規併用戦略
7. リアルワールドエビデンスの重視

Gemini 2.5 Pro
1. 周術期治療の進化と個別化:より早期からの治癒を目指して
2. 分子標的治療の深化と耐性克服:より多様な標的へ、より深く
3. 抗体薬物複合体 (ADC) の躍進:次世代治療モダリティの主役へ
4. 小細胞肺癌 (SCLC) の治療革新:長年の停滞を打破する光
5. AIとリキッドバイオプシーによる精密医療の加速
6. 免疫療法の最適化と新規戦略
7. リアルワールドエビデンスの重要性

DeepSeek R1
1. 周術期治療のパラダイム転換
2. 抗体薬物複合体(ADC)の多角的展開
3. 小細胞肺癌(SCLC)治療革命
4. AI統合型診断の臨床実装
5. 免疫微小環境の解明と治療応用
6. リアルワールドデータ(RWD)活用の深化

GPT-o3
1. 周術期治療:切除可能症例で“術前強化+MRD監視”へシフト
2. 抗体薬物複合体(ADC):標的多様化と治療ライン前倒し
3. KRAS・HER2 などドライバー陰性領域の深化
4. 小細胞肺癌(SCLC):DLL3/B7-H3+免疫+DNA 修復阻害
5. AI・リキッドバイオプシー:早期発見と治療選択を変革
6. リアルワールドデータ(RWD)と特殊集団
7. 免疫療法最適化・新規モダリティ

GPT-4.1 (first trial)
1. 分子標的治療のさらなる進化と細分化
2. 免疫療法の新展開とバイオマーカー探索
3. 抗体薬物複合体(ADC)・新規バイオ医薬品の台頭
4. 早期診断・人工知能(AI)の活用
5. 希少・難治性肺癌(SCLC, LCNEC, 胸腺腫, 中皮腫など)への新規治療アプローチ
6. リアルワールドデータ・多様性の重視

GPT-4.1 (second trial)
1. 治療戦略のパラダイムシフトが加速
2. 免疫療法の深化と併用戦略
3. リアルワールドデータとAI技術の応用
4. 小細胞肺癌(SCLC)・希少癌にも新展開
5. バイオマーカー・サブグループ解析の深化

 

使ったモデルはClaude 4 Sonnet, Gemin 2.5 Pro, DeepSeek R1, GPT-3o, GPT-4.1の5種類。抽出されたトピックスはGPT-4.1以外は似通っていて、とくにClaude 4 Sonnetと Gemin 2.5 Proはほぼ同じだ。DeepSeek R1は分子標的薬が入っていない。GPT-4.1のみ傾向が異なり、また2回のトライアルで結果が異なっている。特にほかのモデルではトップに挙げられている周術期治療が選ばれていない(second trailの治療戦略のパラダイムシフトのサブ項目になっている)。

 

本年度を特徴づけるトピックスは、周術期治療、抗体薬物複合体(ADC)、小細胞肺癌(SCLC)になる。

 

AIによる傾向分析の例 - Gemini 2.5 Proの出力

 

拝見いたしました「学会発表演題.txt」の内容と、ご指示いただいた2023年および2024年の主要医学雑誌(New England Journal of Medicine, Lancet Oncology, Journal of Clinical Oncology)に掲載された論文情報を踏まえ、肺癌専門医の立場から2025年ASCO年会の肺癌領域における主要な傾向を分析し、以下にまとめます。
2025年ASCO年会 肺癌領域における主要トレンド分析
本年のASCOでは、肺癌治療が個別化医療のさらなる深化と、新規治療モダリティの臨床実装という二つの大きな潮流のもとに、目覚ましい進展を遂げていることが示されています。特に、周術期治療の最適化、分子標的治療の精密化、抗体薬物複合体(ADC)の躍進、そして長年進展が乏しかった小細胞肺癌(SCLC)におけるブレイクスルーが注目されます。


1. 周術期治療の進化と個別化:より早期からの治癒を目指して

 

切除可能非小細胞肺癌(NSCLC)における周術期治療は、昨今のトレンドを牽引する領域の一つです。

 

EGFR遺伝子変異陽性NSCLC:

NeoADAURA試験 (8001) は、術前オシメルチニブと化学療法の併用療法と化学療法単独を比較する第III相試験であり、2023年のNEJMに掲載された術後補助療法としてのオシメルチニブの有効性を示したADAURA試験のコンセプトを術前治療へと展開するものです。同様のコンセプトで、術前化学療法および/またはオシメルチニブの成績 (8052) も報告されており、EGFR陽性例における周術期治療戦略の確立が期待されます。


免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を用いた周術期治療:

AEGEAN試験のMRD解析 (8009) では、術後デュルバルマブの有効性を示したAEGEAN試験(2023年NEJM)におけるctDNA動態と微小残存病変(MRD)の関連が検討され、MRDを指標とした治療層別化の可能性が示唆されます。
NeoCOAST-2試験 (8046) では、術前デュルバルマブ+化学療法に新規薬剤を併用する戦略が検討されており、CheckMate 816試験(術前ニボルマブ+化学療法、2022年NEJM)やKEYNOTE-671試験(術前術後ペムブロリズマブ、2023年NEJM)などで示されたICI周術期治療のさらなる効果増強を目指す動きです。
SWOG/NRG S1914試験 (8003) は、高リスク早期NSCLCに対するSBRT単独療法とアテゾリズマブ併用療法を比較しており、局所治療と免疫療法の組み合わせによる治療成績向上を探求しています。


その他の周術期治療:

切除可能ALK陽性NSCLCに対する術前ブリガチニブのWILDERNESS試験 (8040) は、ALINA試験(術後アレクチニブ、2024年NEJM)の成功を受け、分子標的薬の術前導入の可能性を追求するものです。

 

これらの演題は、手術可能な早期肺癌患者さんに対して、より個別化され、より強力な治療を術前・術後に導入することで、治癒率の向上を目指すという明確な方向性を示しています。


2. 分子標的治療の深化と耐性克服:より多様な標的へ、より深く


ドライバー遺伝子変異陽性NSCLCに対する分子標的治療は、新たな標的の同定と耐性克服戦略の開発が継続しています。

 

EGFR遺伝子変異:

Exon20挿入変異に対しては、zipalertinibの有効性 (8503) が報告され、アミバンタマブやモボセルチニブに続く治療選択肢となる可能性が示されています。
EGFR-TKI耐性後の治療として、patritumab deruxtecan (HER3-DXd) のHERTHENA-Lung02試験 (8506) や、sacituzumab tirumotecan (TROP2標的ADC) のOptiTROP-Lung03試験 (8507)、telisotuzumab adizutecan (c-MET標的ADC) の第1相試験 (8512) など、ADCの役割が注目されます。これらは、2023-2024年に報告されたHERTHENA-Lung01(patritumab deruxtecan、Lancet Oncology)やTROPION-Lung01(datopotamab deruxtecan、JCO/NEJM)の流れを汲むものです。


KRAS G12C変異:

アダグラシブとペムブロリズマブの併用療法 (8500, KRYSTAL-7試験) は、KRYSTAL-1試験(JCO 2023)やCodeBreaK 200試験(ソトラシブ、NEJM 2022)で単剤での有効性が示されたKRAS G12C阻害薬と免疫療法の併用による効果増強を目指すものです。


HER2遺伝子変異:

BAY 2927088のSOHO-01試験 (8504) は、トラスツズマブ デルクステカンのDESTINY-Lung02試験(JCO 2023)の成功を受け、新たなHER2標的薬の開発が進んでいることを示しています。


その他:

SAVANNAH試験 (8513) では、MET増幅に対するサボリチニブとオシメルチニブの併用が検討されており、EGFR-TKI耐性機序としてのMETの重要性が再確認されます。

 

3. 抗体薬物複合体 (ADC) の躍進:次世代治療モダリティの主役へ


ADCは、NSCLCおよびSCLCの両方で、多様な標的に対する開発が急速に進んでおり、本年のASCOでもその勢いは顕著です。

 

TROP2標的ADC:

Datopotamab deruxtecan (Dato-DXd) とrilvegostomigの併用療法 (8521, TROPION-Lung04試験) は、TROPION-Lung01試験の成功を受け、1次治療への展開や併用療法による効果増強を目指すものです。
前述のsacituzumab tirumotecan (8507) もEGFR変異陽性NSCLCで有望な結果を示しています。


HER3標的ADC:

Patritumab deruxtecan (HER3-DXd) (8506) はEGFR-TKI耐性例での有効性が期待されます。


c-MET標的ADC:

Telisotuzumab adizutecan (8512) はEGFR変異陽性NSCLCでの開発が進んでいます。


B7-H3標的ADC:

MHB088C (8510) はSCLCを対象とした開発が進んでおり、新たな治療標的としてのB7-H3の可能性を示しています。

 

ADCは、従来の化学療法や分子標的薬、免疫療法が効果不十分な症例に対する新たな希望となるだけでなく、治療ラインを前倒しして使われる可能性も秘めています。


4. 小細胞肺癌 (SCLC) の治療革新:長年の停滞を打破する光


進展型小細胞肺癌(ES-SCLC)の治療は長年プラチナ製剤併用化学療法と免疫療法の組み合わせが標準でしたが、新たな治療戦略が登場しつつあります。

 

新規薬剤・併用療法:

IMforte試験 (8006) では、1次治療の維持療法としてルルビネクチジンとアテゾリズマブの併用が検討されています。また、2SMALL試験 (8013) では2次治療としての同併用療法の有効性が検証されています。これらは、Zepzelca(ルルビネクチジン)の承認(2020年)以降の展開です。
ASTRUM-005試験 (8093) では、新規抗PD-1抗体serplulimabと化学療法の併用が1次治療として有望な結果を示しており、IMpower133試験(アテゾリズマブ、NEJM 2018)やCASPIAN試験(デュルバルマブ、Lancet 2019)に続く選択肢となる可能性があります。


新規治療標的:

ZG006 (8007) はDLL3を標的とする三特異性T細胞エンゲージャーであり、タルラタマブ(DLL3標的BiTE抗体、DeLLphi-301試験 NEJM 2023)に続くDLL3標的療法の開発が期待されます。
TRIDENT試験 (8101) では、デュルバルマブとPARP阻害薬オラパリブの併用が検討されており、DNA損傷応答を標的とした治療戦略の可能性が示唆されます。
前述のMHB088C (8510) はB7-H3を標的とするADCであり、SCLCにおける新たな治療アプローチです。

 

これらの演題は、SCLCにおいても、免疫療法、分子標的治療、ADCといった新たな治療モダリティが有望であることを示しており、治療成績の向上が期待されます。


5. AIとリキッドバイオプシーによる精密医療の加速


人工知能(AI)とリキッドバイオプシー技術の進展は、肺癌の早期発見、診断、治療効果予測、MRDモニタリングといったあらゆる局面での精密医療を加速させています。

 

AIによる診断支援:

高リスク非喫煙者におけるAIを用いた肺癌スクリーニング (8055, LC-SHIELD study) や、4種のタンパク質マーカーとAIによる早期発見 (8028) は、AI技術のスクリーニングへの応用可能性を示しています。
AI搭載PD-L1アナライザーの検証 (8535) や、EGFR-TKI耐性後の腫瘍微小環境のAI空間解析 (8536) は、病理診断やバイオマーカー評価におけるAIの役割拡大を示唆します。
インテグリンαVβ3標的イメージング (8017, TRIIL study) は、新たな画像診断技術の開発を示しています。


リキッドバイオプシーの進化:

cfDNAフラグメントームを用いた肺癌の特性評価 (8074) や、DNAメチル化に基づくリキッドバイオプシー (8082) など、より高感度かつ多角的な情報取得を目指した技術開発が進んでいます。
早期NSCLCにおける血漿および組織でのEGFR縦断的評価 (8038) は、MRDモニタリングや耐性出現予測への応用が期待されます。

 

6. 免疫療法の最適化と新規戦略


既存の免疫チェックポイント阻害薬の効果を最大化するためのバイオマーカー探索や、新たな免疫療法戦略の開発も継続しています。

 

新規チェックポイント・併用療法:

PD-1阻害薬とLAG-3阻害薬の併用 (8526) は、新たな免疫チェックポイントの組み合わせによる効果増強を目指すものです。


細胞療法:

低酸素応答性CEA CAR-T細胞療法 (8517) は、固形癌におけるCAR-T療法の新たなアプローチです。


バイスペシフィック抗体:

PD-1/VEGF二重標的抗体 (8543) など、複数の標的を同時に狙う治療法の開発が進んでいます。

 

7. リアルワールドエビデンスの重要性


臨床試験の枠組みだけでなく、実臨床における治療実態や課題を明らかにするリアルワールドデータ(RWD)の重要性も増しています。

 

特定の患者集団における解析:

HIV関連肺癌の特性、治療パターン、予後 (8050) や、退役軍人における早期NSCLCの初期治療と生存期間 (8047) など、特定の背景を持つ患者群におけるエビデンス構築が進んでいます。
術前化学免疫療法を開始したものの手術に至らなかった患者のリアルワールド特性 (8019) など、治療が計画通りに進まなかった場合の要因分析も重要です。

 

臨床的インパクトと今後の展望


Immediate Clinical Impact(即座の臨床的影響が期待される点):

EGFR遺伝子変異陽性切除可能NSCLCにおいて、NeoADAURA試験 (8001) の結果次第では、術前オシメルチニブ+化学療法が新たな標準治療となる可能性があります。
KRAS G12C変異陽性NSCLCにおいて、KRYSTAL-7試験 (8500) の結果は、アダグラシブとペムブロリズマブ併用の1次治療での位置づけに影響を与える可能性があります。
SCLCにおいて、DLL3標的薬ZG006 (8007) やB7-H3標的ADCMHB088C (8510) の初期データは、今後の開発と実用化に大きな期待を抱かせます。
各種ADC(HER3-DXd (8506), sacituzumab tirumotecan (8507), telisotuzumab adizutecan (8512))の進行中の試験結果は、特定の患者群における治療選択肢を拡大する可能性があります。

 

Future Directions(今後の方向性):

MRD (Minimal Residual Disease) ガイド治療: AEGEAN試験のMRD解析 (8009) に代表されるように、ctDNAなどを用いたMRD評価に基づき、治療の強化やde-escalationを行う個別化治療戦略がさらに発展するでしょう。
AIの臨床実装: AIを用いた画像診断支援 (8055, 8017) や病理診断支援 (8535, 8536) が、より広く臨床現場に導入され、診断の効率化・高精度化に貢献することが期待されます。
ADCのさらなる展開: より多くの標的に対するADC開発と、化学療法や免疫療法との併用、さらには早期ラインへの導入が進むと考えられます。
SCLC治療のパラダイムシフト: DLL3、B7-H3といった新規標的に対する治療法や、PARP阻害薬併用などが実用化されれば、長年停滞していたSCLCの治療成績が大きく向上する可能性があります。

 

結論


2025年のASCO年会における肺癌領域の発表は、過去数年間の基礎研究および臨床研究の成果が結実し、治療戦略が急速に進化していることを明確に示しています。「個別化医療」と「新規モダリティ」を両輪として、肺癌患者さんの予後改善に向けた力強い歩みが続いています。特に周術期治療の最適化、ADCの台頭、SCLCにおける新規治療法の開発は目覚ましく、今後の臨床現場に大きな変革をもたらすことが期待されます。