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三体:基礎物理学実験へ介入する地球外文明の話

「三体」は中国のSF作家劉慈欣が2008年にかいたSF小説で、日本語訳は2019年に出版されている。当時ベストセラーになり、科学者の間でも評判になった。この度遅ればせながら読んだ。先日アマゾンプライムで「接続された未来 - ペリフェラル」を見たが、いまいち盛り上がりに欠けたので、今度は小説を試してみた。昔とは感性が変化して、現実ではない事象を描く小説や映画への関心が激減した気がするので、「三体」を読んで確認しようと考えたわけである。

 

引き込まれてページをめくる手が止まらない、ということはなかったが、最後まで読める程度には面白かった。「ペリフェラル」のときと同じで、多分10年位前なら熱中して読んだろう、と思う。人工ウイルスによるパンデミックやAI(チャットGPT)など現実世界の出来事がSFの世界に突入してきているので、SF小説やSF映画は面白くなくなってきたのだ、と考えている。

 

このSFのアイデアの核心は、基礎物理学実験への介入による地球文明の破壊だ。「三体」の後半、女性科学者がアルファ・ケンタウリ領域にある三体文明へ信号を発信したため、三体文明が地球文明の存在を発見、地球への侵略を計画する。ただし侵略軍が地球に到達するのに450年かかり、地球文明の発展速度だと450年の間に三体文明の侵略軍を撃退できる科学技術を獲得する、と予想された。そこで三体文明は、一個の陽子から構成されるAIを地球へ送り、物理学の基礎実験(加速器)に介入して正しいデータを収集不可能にした。つまり基礎物理学の発展を妨害することにより、地球文明の科学全体の発展を妨害を画策した。「三体」は此処で終わり、「三体II」へ続く。

 

個人的な問題だが、素粒子物理や超ひも理論などの基礎物理学は門外漢なので、設定がどこまで正しくて、どこからがフィクションなのか、気になってしまった。これがサイバーパンクがテーマの小説ならば、設定の現実性を意識下で判断して読み進むので気にならない。医学・生物学は専門なので設定の非現実性がすぐに分かってしまい、その部分はフィクションとして意識下で処理してしまう。例えば、画像なら視神経経由で外部から情報を送ることは可能かもしれないが、デジタル化した画像データや言語情報を脳内へケーブルや電磁波経由で送信することは不可能だ。これらを処理する神経細胞は脳内に分散しており情報の種類によって伝達部位を細かく指定する必要があり、また神経細胞にデジタル情報を伝えるデータ変換方法は多分つくれない。サイバーパンク系の小説なら、これらのことを意識下で把握して読書を進める。しかし物理学上の設定は知識がないため、それぞれの設定が科学的に正しいのかフィクションなのかわからず、気になってしょうがないのだ。理論物理学者の感想を聴きたいところだ。