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中国の「双循環」戦略:米中デカップリングの中国側


米中の経済デカップリングについて米国側の施策、特に半導体規制は日本でも大々的に報道されている(加速する米中デカップリング:米国主導の対中半導体輸出規制とその事業影響)。米国側だけではなく、実は中国の方もデカップリング施策を行っている:それが「双循環」戦略(Dual Circulation Strategy)だ。

 

「双循環」戦略とは

中国の「双循環」戦略での双循環は、​国内循環と国際循環の2つの循環を指している[中国経済の近未来を決定づける「双循環」の行方]。​この戦略は、​中国の巨大な市場規模と国内需要の潜在力を生かし、​国内と国際の相互に補完する2つの循環に基づく新たな発展のパターンを確立することを目的としている[中国経済の近未来を決定づける「双循環」の行方]。​習近平主席は、​2020年7月21日の企業経営者との座談会で、​「国内大循環を主体として、​国内外の双循環が互いに促進する新発展モデルを目指す」と表明した[中国の新発展モデル「双循環」とは何か]。​


「双循環」の元々のアイデアは、​国家計画委員会(現在の国家発展改革委員会)の王建研究員が1980年代後半に提唱した「国際大循環」からきている[中国の新発展モデル「双循環」とは何か]。​中国は、​国内市場の拡大によって、​国内需要を増やし、​国内市場を活性化させることで、​内需主導型の成長を目指している[中国の「双循環」戦略と産業・技術政策]。​また、​中国は、​自国の産業を強化し、​国際市場での競争力を高めることで、​国際循環を促進することも目指している[中国の「双循環」戦略と産業・技術政策]。​
「双循環」戦略は、​中国の経済発展に大きな影響を与えるものであり、​アジア地域にも影響を与える可能性がある[中国の「双循環」戦略と産業・技術政策]。​中国が国内市場を重視することで、​輸出に依存していたアジア諸国にとっては、​市場の縮小が懸念される。​一方で、​中国が自国の産業を強化することで、​アジア諸国にとっては、​中国市場へのアクセスがより困難になる可能性がある。​
「双循環」戦略は、​中国が自国の経済発展を主導するための戦略であり、​具体的な政策や施策はまだ明確にされていない[中国経済の近未来を決定づける「双循環」の行方][中国の新発展モデル「双循環」とは何か]。​しかし、​中国が国内市場を重視することで、​内需主導型の成長を目指すことは明確である。

 

米国と欧州の反応

中国の「双循環」戦略に対して、米国と欧州は懸念と懐疑の念を持っている。この戦略は、貿易の質を向上させながら、中国経済を牽引する外国貿易の役割を減らすことを目的としている。米国や欧州への依存から貿易を多様化することにより、欧米からの政治的圧力に対する中国の脆弱性を軽減する意図がある。すなわち国際的戦略における意図は、国内の貯蓄プールを利用して、経済的な手段で地政学的な目標、すなわちアジアそして世界における優位性、を達成することである。これは、市場経済圏の常識では考えられないことであり、国際的な経済活動のあらゆる側面で政治化が深まり、世界の貿易システムは大きなストレスにさられる、と予想できる。米国と欧州は、中国の自立が進み、それが欧米経済に与える潜在的な影響を懸念している。また、中国の意図や地政学的な目的で戦略が利用される可能性にも批判的だ。「双循環」戦略以前から、米国と欧州は中国の投資や技術移転に対する監視を強化し、中国への依存度を下げるために自国の貿易関係を多様化しようとすることで対応してきた。[Dual circulation in China: A progress report][The impact of Dual Circulation Strategy on China’s overseas investments][How China is responding to escalating strategic competition with the US][China's Dual Circulation Policy and the U.S. Response][Download report | The impact of Dual Circulation Strategy on China’s overseas investment]

 

日本への影響は?

中国の「双循環」戦略が日本に与える影響については、限られた情報しかない。しかし、中国の主要貿易相手国である日本が、この戦略の影響を受ける可能性は高い。同戦略は、中国の海外市場や技術への依存度を下げることを目的としており、日本の対中輸出の需要減少につながる可能性がある。一方、この戦略は中国の内需を活性化させることも目的としており、中国市場を開拓できる日本企業にとっては新たなビジネスチャンスが生まれる可能性がある。さらに、この戦略は、特定の産業、特にハイテク分野での日中間の競争激化につながる可能性もある。全体として、「双循環」戦略が日本に与える影響は、複雑かつ多面的であり、関係する特定の産業や企業、より広範な地政学的・経済的動向など、さまざまな要因に左右される可能性がある[Download report | The impact of Dual Circulation Strategy on China’s overseas investments][Will Foreign Investors be Affected by China’s Dual Circulation Strategy?][The impact of Dual Circulation Strategy on China’s overseas investments | Global Trade and Innovation Policy Alliance][What we know about China's 'dual circulation' economic strategy][What is China’s Dual Circulation Strategy?]。

 

経済観察

江沢民、胡錦濤の時代は欧米からの資本主義の導入により経済発展したが、その副作用として国際金融資本を中心とする海外勢力と海外勢力と結託したCCP内部の勢力に富と権力が集中した。2010年代習近平政権はその修正を行ってきた、と云える。欧米側の代弁者の一人であるジョージ・ソロスは2009年には中国に対し肯定的な発言をしていたが[George Soros: "Today China Has Not Only a More Vigorous Economy, but Actually a Better Functioning Government Than The United States]、最近は非常に強い口調で中国の経済政策を批判している。ソロスは、欧米の意向に反した中国の台頭が世界経済のデカップリングを引き起こしていると考えており、習近平を倒すことに執着している[Why George Soros is obsessed with defeating Xi Jinping’s China, Economy News - ThinkChina]。この発言から鑑みて習近平政権は、欧米の既存勢力の排除に成功しており、「双循環」戦略はその延長上にある、ということだろう。つまり中国国内へ侵入して富と権力を略奪する勢力を排除して、CCPにメリットが有る経済活動のみ選択することが目的だ。これからの推移を見守る必要がある。