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シリコンバレー銀行急速破綻の原因

 

シリコンバレー銀行(Silicon Valley Bank, SVB)は全米で18番目に大きな銀行で資産規模は日本円でおよそ28兆円、アメリカの銀行の破綻では2番目の規模となる。83年の設立以来、主にテクノロジー関連のスタートアップ企業やスタートアップ企業に出資するベンチャーキャピタル向けに融資してきた。この銀行の資料によると去年1年間にベンチャーキャピタルが出資するテクノロジーやヘルスケア関連の企業がアメリカで行った株式の新規公開のうち、44%がこの銀行の取引先だった。

 

この破綻はFRBによる金利引き上げが原因、と言われている。スタートアップ・ベンチャー企業はゼロ金利政策のもと融資を増やしてきたが、FRBの金利引き上げにより経営状況が悪化してきた。そのためSVBの預金残高は2022年に13$減少している。またSVBは長期米国債を中心に資金運用してきたが、資金繰りが悪化してきたため、短期米国債に切り替えるとともに増資で乗り切ろうとした。増資計画を発表したのが3月8日で、その翌日9日に株価が60%下落、そして10日には取り付け騒ぎが起こって破綻している。米国連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation, FDIC)の預金保護により13日から営業再開の予定だ。SVBの財務状況は必ずしも悪いということはなく、資産が負債を350億ドル上回っており、このような銀行の破綻は前代未聞ということだ。

 

不思議に思ったのは、破綻のスピードである。増資計画の発表から破綻までわずか2日である。疑問に思って調べてみたら、シリコンバレーの特殊性が背景にあることがわかった。取り付け騒ぎの経緯はFASTCOMPANYの記事が解説している。

Silicon Valley Bank: An ‘It’s a Wonderful Life’ bank run for the digital age

Peter Thielというシリコンバレーの大物企業家が主宰する Founders Fundが関連企業にSVBから預金を引き出すように指示したことが発端である。Peter Thielの指示が発端になって、雪だるま式に預金引き出しが起こって破綻した。しかし、何故こんなに早急に皆預金を引き出そうとしたのか。実はシリコンバレーのスタートアップ企業やベンチャーキャピタルの殆どはSVBに全資産を預けていて、資産を分散して預金する、ということをしていなかったのだ。そのため皆慌てて預金を引き出そうとしたのだ。この辺の事情は、シリコンバレーの内部の人であるGarry Tan 陈嘉兴のツイッターとその返信から窺う事ができる。預金の政府保証は25万ドルだが、預金額の95%はこの25万ドルを越えているとのこと。そのためスタートアップ企業やベンチャーキャピタルの多くが従業員の給料を来週にも払うことができなくなり倒産する。政府の助けがなければ、これまで多くのIT企業を育ててきたシリコンバレーのエコシステムが崩壊する。

 

資産の分散はリスク回避のため当たり前のことだが、シリコンバレーの連中はこの当たり前のことを行ってこなかったのだ。シリコンバレーの連中は政府からの補助を呼びかけているが、自業自得なので税金の使用は不適切だろう。あまりにも愚かなのでシリコンバレーは潰れてもよい。エコノミストのEmin Yurumazu (エミンユルマズ)氏も同意見である。