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生物学医学における情報収集;新型コロナウイルスでの問題点

新型コロナウイルスについて様々な情報で社会は混乱しているが、科学のプロフェッショナルからすると、そもそも短い期間で正確な科学的情報を得ることはほとんど不可能だ。

 

そもそも生物学医学研究の精度は低い

生物学医学研究は大別すると2種類あって、一つは研究室内で細胞や動物を使って行う実験研究、もう一つは人を使った研究、治療薬やワクチンを投与する試験や、過去に治療薬やワクチンを投与した人を対象とした研究や人の集団を扱う研究だ。最初の実験研究については、論文発表の後、他の科学者が再現実験をすることから始まる。別個の研究者が研究成果を再現できて、初めて正しい成果であることがわかる。実際は著名な雑誌に掲載された論文であっても正しいことは少ない。2012年にアムジェン社が行った研究で、癌の分野で重要な発見とされた53の研究成果の中で、再現できたのはたった6件だけだった(Raise standards for preclinical cancer research | Nature)。この調査の凄いところは、実際に論文を発表した研究室で再現実験を行っても確認できなかった点だ。これは研究不正があったということではなく、生物学研究の精度がこの程度、ということである。新型コロナウイルスの研究でも同程度の精度と考えたほうが良い。

人を対象とした研究の中には、患者を調べる臨床研究や、集団を調べる疫学研究がある。過去のデータを使う研究は「後ろ向き」研究という。現在の新型コロナウイルスの研究は、ファイザーやモデルナ等の製薬企業が行った臨床試験以外の研究は、大部分がこの「後ろ向き」研究だ。「後ろ向き」研究の問題点は、必ずしも対象としている人の集団が均一ではない点である。例えば、ワクチン接種者と非接種者を比較する場合、喫煙者が被接種者に多いとすると、両者の違いがワクチンなのか煙草なのかわからなくなる。また煙草のような既知の因子ではなく未知の因子が原因で差がでる可能性もある。このようなバイアスの可能性があるため「後ろ向き」研究の信頼性は低く、たとえば「後ろ向き」研究では医薬品の政府機関承認は得られない。

製薬企業が行う臨床試験は、試験計画を立てて、それに則って被験者を集めて、投薬試験を行う。このような試験は「前向き」と呼ばれている。通常新薬の臨床試験では、試験参加者を完全にランダムに2群に振り分けて(無作為割付)、いろいろな因子によるバイアスを完全に消去している。ワクチンの臨床試験も無作為割付「前向き」試験である。

 

ワクチンの臨床試験の被験者数は接種者全体と比べて圧倒的に少ないが、治療薬では十分な被験者を集められる

ところが、ワクチンの臨床試験の問題点は、そもそもの被験者数が少ないことだ。現在ワクチン接種回数は全世界で60億を越えているが、ファイザーワクチンの場合わずか2万人程度で使用許可が降りた。2万人のデータは、十数億人の効果、副作用を判定するにはあまりにも少なすぎる。臨床試験の結果と異なる様相を見せる国、地域があっても不思議ではない。季節性(臨床試験は国際共同治験で行われているため北半球だけではなく南半球も入っているため季節性は程度相殺されているはず)や変異株などの状況も臨床試験時とは異なるため、現実世界の状況は臨床試験のデータと違ってきても当たり前だ。

治療薬の臨床試験では、将来投薬される患者数がすくないため、十分な被験者を集めることが可能で、その性能、副作用を正確に評価できる。

 

分析

以上のように、正確な科学的情報を短時間で得るのは非常に難しい。研究室内での実験研究については再現実験で確認する時間はないので、新型コロナウイルスの場合、間に合わないだろう。疫学研究では「後ろ向き」研究を多数積み上げることにより、コンセンサスをつくることになるだろう。インフルエンザワクチンから類推して、新型コロナウイルスのワクチンの有効率は50%程度、有効期間は半年、と予測していた人が多かっただろうが、有効率が90%以上で、一時皆色めき立った。しかし有効期間はやはり短そうで、副作用の危険性が明らかでない点、このまま定期接種に移行する、という決断は難しいだろう。やはり、科学的評価が容易な治療薬が今後の鍵になるだろう。