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銘酒誕生物語

WOWWOWのドキュメンタリーシリーズ。アマゾンプライムで視聴。科学と技術の社会学に興味のある人には面白いシリーズ。

 

全国各地の地酒を作る蔵元の中で、独自の方法で銘酒を造る蔵元、特に若い蔵元を紹介する21回のシリーズ。スペシャルは現在の日本酒製造のトレンドを創始した高木酒造の15代目蔵元の紹介である。

 

1980−90年代に地域の酒造りは大きな危機に直面していた。酒造の蔵元は経営責任者であるが、製造責任者は杜氏で、杜氏が日本酒製造技術を受け継いできていた。そして職人集団である蔵人を統率して日本酒をつくる。ところが1990年代になると杜氏が高齢でどんどん引退して、その技術が継承されず、蔵を廃業しなければならないという危機に直面していた。この全国的な問題を解決したのが、高木酒造の15代目当主である高木顕統氏である。彼は1993年に高木酒造の当主となり、 “十四代”という銘酒を作り出した。“十四代”は今も日本酒ランキング一位の銘酒だが、高木氏が日本酒業界に与えた衝撃は酒そのものではない。彼以前は蔵元は経営者、製造責任者は杜氏であったが、彼は蔵元自らが製造責任者になれることを示した。彼以降、多くの蔵元の跡継ぎが、自ら日本酒の製造に関わるようになった。このため杜氏の引退の問題も解決され、地酒の存続の危機は回避された。シリーズのかなりの部分はこれらの若い蔵元の活躍に割かれている。

 

ドキュメンタリーの中では明確には述べられていなかったが、日本酒製造のマニュアル化も成功の原因と推察される。成功した若い蔵元は、杜氏から教育を受けてはいない。そのかわり、殆どが東京農業大学醸造学科の卒業生なのだ。浅間酒造(18回)の蔵元の話だが、現在では望んだ香りや味は自由につけることができる、という。即ち日本酒製造法は細部までマニュアル化されていて、東京農業大学で学ぶことができる、と推察される。卒業生はこの基本知識をベースに、自分たちの蔵で独自の方法を開発できる。顕著な例が今西酒造(19回)だ。現在の当主が先代から継いだとき、現場は清掃さえされていない最悪の状態であったが、わずか3年で全国の地酒の平均を上回る日本酒を造り、6年目に品評会で金賞受賞するまでになった。日本酒が1年酒であり製造サイクルが速いこと、また本人の才能もあったと思うが、東京農業大学で日本酒製造のかなりのディーテールを習っていないと不可能だろう。

 

現在アルコール飲料の消費は減少傾向で、リキュール類(第3のビールやチューハイ)以外は減少している(「日本酒を巡る状況」令和2年4月)。日本酒も例外ではないが、減少しているのは一般酒で、これらの蔵元がつくる特定名称酒(吟醸酒、純米酒、本醸造酒)は横這いで減っていはいない。全国の蔵元の努力の賜であろう。日本酒は蔵元新当主の製造責任者兼務、東京農業大学における日本酒製造法のマニュアル化で、存続の危機を乗り切ったようだ。