精密医療電脳書

分子標的薬 コンパニオン診断 肺がん ウイルス 人類観察

バンデン・ボッシュ博士の公開書簡:パンデミック下の大規模ワクチン接種の危険性を指摘

ギアート・バンデン・ボッシュGeert Vanden Bossche博士は2021年3月6日にWHOへの公開書簡をLinkedIn(業界向けのSNS)にて公開、同業者へワクチン接種を直ちに中止するように呼びかけた。バンデン・ボッシュ博士の略歴は以下のとおりであり、ワクチン開発に関わる企業研究者としてはトップレベルだ。

GSKバイオ医薬品部 アジュバント開発プログラムトップ
ノバルティス アジュバント開発プログラムディレクター
ソルベイ・バイオロジカル インフルエンザワクチン国際プロジェクトディレクター
ビル&メリンダ・ゲイツ財団 上級プログラムオフィサー
GAVIワクチンアライアンス エボラ対策上級プログラムオフィサー

バンデン・ボッシュ博士は、現在の新型コロナウイルスワクチンを「最高の人々がつくった最高のワクチン」と絶賛しているが、このワクチンの大規模接種は直ちに中止すべきである、と云っている。公開書簡の内容を説明するが、原文はわかりにくいため、私の方で再構成した。なお、バンデン・ボッシュ博士の見解に関しては、ネット上の動画や記事で散見されるが、彼のメッセージを正確に伝えていないため注意が必要である。

 

バンデン・ボッシュ博士の警告(精密医療電脳書が再構成)

細菌やウイルスが人体に侵入したときの防御システムには非特異的免疫と獲得免疫がある。最初に働くのは非特異的免疫で、とくに粘膜で病原体の侵入を食い止める。非特異的免疫はどのような病原体にも効果がある。非特異的免疫で食い止める事ができないときには獲得免疫が働く。すなわち病原体に対する抗体がつくられて病原体を中和する。新型コロナウイルスの場合は、スパイク蛋白に対する中和抗体ができてウイルスを除去する。ワクチンはスパイク蛋白を人体でつくって、感染前にあらかじめ新型コロナウイルスに対する獲得免疫をつくる。ワクチン接種をした場合、ウイルスが侵入すると非特異的免疫が働く前に獲得免疫が働くので、非特異的免疫は弱くなる傾向がある。

ワクチンのスパイク蛋白は従来株のものである。変異株に対しては従来株の中和抗体は効きにくく、特に従来株の感染者とワクチン接種者は自然免疫も弱っているため、ウイルスは除去されず、感染者となる。すなわちワクチンはウイルスから人を守るわけでなく、変異ウイルスの伝搬者をつくることになる。

普通の状況では、このような問題は発生しない。例えば、毎年インフルエンザのワクチンを多くの国で集団接種するが、ワクチンで変異株が発生することはない。変異はウイルスが増殖しているときに低頻度でおこるが、通常の流行の場合、変異株が定着するほどのウイルス増殖はない。ところがパンデミックの場合は、爆発的にウイルスが増殖するので多くの変異株が発生し、ワクチン接種者の増加に伴い、ワクチン耐性のものが定着するのだ。従って、ワクチンは普通の流行では推奨されるが、パンデミックのときの大規模接種は避けるべきである。大規模接種は変異株をつくり、それを拡散する。

スパイク蛋白はヒトの細胞上のACE2というタンパク質と結合して感染する。中和抗体はACE2よりも親和性が高いため、スパイク蛋白とACE2の結合を阻害するわけだが、変異を起こして中和抗体よりもACE2への親和性が高いスパイク蛋白ができると、ワクチンは全く効果がなくなる。このような変異株が発生するのは時間の問題である。新型コロナウイルス非感染者の非特異的免疫はもとのままだが、古い株のウイルス感染者とワクチン接種者は非特異的免疫が弱体化しているため、トラブルに陥るだろう。

悪夢のような話だが、解決策はある。それは非特異的免疫の強化だ。とくに非特異的免疫のプレーヤーの一つであるNK細胞は特異的に強化できる、という研究成果があり、NK細胞を新型コロナウイルス向けに強化するようなワクチンが解決策になる。

 

分析

残念ながら、現状はバンデン・ボッシュ博士の予測通りの展開になっている。イスラエルは世界で最も早期に大規模接種を開始し、現在の2回接種率が63%と最も高い国だが、現在の感染率は世界最高で、ワースト2位のモンゴルの2倍近い数値になっている。もちろんイスラエルでもデルタ株が蔓延している。

johosokuhou.com

ただし、バンデン・ボッシュ博士の提言が受け入れ可能か、というとそれは無理だ。彼の予測は生物学によるものだが、医療のほうが社会では優先される。医療は個々の人に提供されるものなので、個人がワクチン接種を希望した場合拒否はできないし、重症化防止効果があるので医師が推奨するのは当然であろう。また、一つの予測なので、100%そうなる、というわけではない。但し、医療行為がかえってパンデミックを悪化させている可能性は認識しておいたほうがよいだろう。

COVID-19に対する非特異的免疫強化に関しては、パンデミック初期に総説がでていた。NK細胞の特異的強化に関する記載はなかったが、全般的な非特異的免疫強化に関してはいくつかの事例が報告されていた。例えば、BCG接種(非特異的免疫を強化する効果がある)の新型コロナウイルス予防効果に関する試験が、オランダ、オーストラリア、エジプト、米国で行われている。

 

バンデン・ボッシュ博士のホームページ

www.voiceforscienceandsolidarity.org

 

非特異的免疫強化に関する総説

Angka,L., Market, M., Ardolino, M. et al. Is innate immunity our best weapon for flattening the curve? J Clin Invest. 2020 130:3954–3956. DOI: 10.1172/JCI140530

 

追記(2021年9月14日);バンデン・ボッシュ博士のホームページを大体読んで、自身の見解がまとまった。

precision-medicine.jp