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欲望の資本主義2022夏 特別編 「メタバースの衝撃 デジタル経済のパラドックス」

Virtual reality by Diego Velázquez (created with Stable Diffusion)

 

欲望の資本主義2022夏 特別編 「メタバースの衝撃 デジタル経済のパラドックス」が秋分の日に地上波で再放送されていた。地上波はBSと異なり1週間ほど配信されるので便利である。この放送を一部地上波で、一部配信でみたが、このシリーズの他の番組と同様、中立的な構成になっている。しかしメタバース自体が明確に定義されているないため不明瞭な点も多かった。情報科学の発展によりVR(virtual reality、バーチャルリアリティ、仮想現実)が発展してきたので、この技術を用いて現実世界から独立した世界をつくる、それがメタバースの本来の意味であろう。しかし番組ではアバターの商用利用なども紹介されており、本来の意味や思想がわかりにくくなっている。

この番組をみて3つの疑問をもった。一つはメタバースで用いるVR技術の問題だ。VRの特徴は現実世界からの情報入力を遮断して仮想世界からの情報入力に限定する点だ。「現実世界からの情報入力遮断」がスマートフォンなど現行のデバイスと異なる点で、まずこれが人々が生理的に受け入れるかどうか、が疑問だ。スティーブ・ジョブスがiPhoneを開発したときにペン入力ではなく指入力にこだわったのは有名な話だ。この話は人からデバイスへの出力で、VRはデバイスから人への入力である点は異なるが、人の生理機能との整合性が重要である点を指摘している。生理学的にみてVRの汎用化は難しい気がするが、この問題については答えがでているのだろうか。

次の疑問はメタバースの収益性の問題だ。メタバースのような閉じた空間の経済が成立するかどうか、という問題である。確かにゲームでは成立している:MMORPGはメタバースの先駆けとも考えることができるが、プラットフォームによっては大きな収益をあげている。ただしこれはゲーム自体に魅力があるためで、現実世界を模倣した仮想現実の世界に魅力があるかは不明だ。メタバース推進者の一人が自身のプラットフォームでメタバースでの土地の重要性を強調していたが、任天堂の「どうぶつの森」でも土地を買って建物を立てたり村をつくったりできる。

最大の疑問はメタバースを推進している人々が現在の経済情勢を理解しているのだろうか、という点だ。この番組の収録の一部はウクライナ侵攻以前のもので、市場規模が100兆円に達するだろう、という予測は侵攻以前の分析だろう。しかし侵攻以降、金融システム崩壊の徴候は明確に見えてきており、もはやメタバースを含むIT関連のビジネスが巨大化することはありえない。番組中エマニュエル・トッドがインタビューに答えて、すでにメタバースは時代遅れ(obsolescentという言葉を使っているのでこの翻訳は若干ニュアンスが違う)だ、ヨーロッパの人々が今年の冬を越せるかどうかわからない状況でメタバースなどありえない、と発言していた。バイデン政権によるロシアの資産凍結、最近のFRBの連続した金利引き上げをみて金融システム崩壊を予見しない事業家はあまりにもナイーブすぎる。

まとめると、この番組は提供する情報は雑多だったが、現在の経済状況を把握した上で見ると、色々示唆するところがあり興味深かった。

 

サルバドール・ダリにもVRを描いてもらったので、ついでに載せておく。

Virtual reality by Salvador Dalí (created with Stable Diffusion)