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日本と米国の通貨発行制度、内部貨幣と外部貨幣

経済に関しては、不可思議だ、と思えることが結構あり、そのような事柄は問題を引き起こすことが多い。一つの例は、サブプライムローンだ。証券会社の人々は、優れた金融工学をつかって不良債権を優良な債権と組み合わせて証券化しているので、不良債権のリスクはない、と主張していた。しかし、リーマンショックは起こった。ちょっと常識を働かせば、不良債権のリスクが消えるはずなどないのだ。金融工学はリスクを見えにくくしていただけで消していたのではない。

政府・日銀の行っている金融緩和は不可思議に思える。日本銀行が異次元の金融緩和をして通貨発行し続けても、目標インフレ率2%にならなかった。これもちょっと常識で考えれば、どこかに発行した通貨が淀んで滞ていて流通していないからものの価格が変化しない、すなわち通貨発行は効いていない、と気がつく。パンデミックのため需給バランスが崩れて日本もインフレになってきているが、これは本来狙っていた経済成長のためのインフレではない。いずれにせよ経済システムの抜本的な改革が必要で、その仮説のひとつが、以前の記事でのべたゾルタン・ポズサーのブレトン・ウッズ3だ(ブレトン・ウッズ3:パンデミック・ウクライナ侵攻後の経済 〜 現物資産に裏付けられた人民元が台頭する)。ここではブレトン・ウッズ1,2,3に関する理解を詰めるために、調べた内容を紹介する。一つは通貨発行制度で、もう一つは内部通貨と外部通貨というコンセプトである。

 

通貨発行制度

 

日本

銀行券については、日本銀行法において、「日本銀行は、銀行券を発行する」とされており(46条1項)、日本銀行が発行する銀行券(日本銀行券)は法貨として無制限に通用するとされている(同条2項)。日本銀行は独立行政法人国立印刷局に対して製造費用を支払って製造された日本銀行券を引き取る。日本銀行券は、金融機関が日本銀行に保有している当座預金を引き出し、日本銀行の窓口から銀行券を受け取った時点で発行されたことになる。

貨幣(硬貨)については、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律において、「貨幣の製造及び発行の権能は、政府に属する」とされており(4条1項)、貨幣は、額面価格の20倍までに限り、法貨として通用することとされている。貨幣(硬貨)の方は発行主体は日本銀行ではなくて政府である。

 

米国

銀行券に相当する連邦準備券(Federal Reserve notes)は、合衆国の債務(obligations of the United States)であるとされているが、連邦準備制度理事会(Board of Governors of the Federal Reserve System: FRB)の裁量により発行される。連邦準備制度理事会は連邦準備券の製造量を決定し、それに基づき財務省印刷局(Treasury’s Bureau of Engraving and Printing)が印刷する連邦準備券を、製造費用および連邦準備銀行までの運搬費用を支払って引き取る。連邦準備銀行が預金取扱金融機関(depository institutions)に対し連邦準備券を払い出し、連邦準備銀行は当該預金取扱金融機関の当座預金から同額を引き落とすことにより、連邦準備券が流通することになる。

貨幣(硬貨)については、連邦議会が「貨幣を鋳造すること(coin Money)、
その価格および外国貨幣の価格を規制すること、ならびに度量衡の標準を定めるこ
と」について権限を有する、とされている。

 

日本と米国の比較

先日の鈴木財務相の説明にもあったように、日本銀行の株式は55%政府が保有しているが、政府には議決権がないので、通常の会社法の子会社にはあたらない。従って日本銀行は政府から独立している、といえる。発行した銀行券はバランスシート上日本銀行の債務に計上されている。

米国は銀行券に相当する連邦準備券は政府債務と規定されている点は日本と異なるが、発行の裁量全権は、政府から独立した連邦準備制度理事会にあるので、日本銀行と同じく政府と独立している。発行した連邦準備券はバランスシート上連邦準備銀行の債務に計上されている。従って日米共制度は大きくは違わない。

 

内部貨幣と外部貨幣

内部貨幣(あるいはインサイドマネー、inside money)と外部貨幣(あるいはアウトサイドマネー、outside money)はポズサーのブレトン・ウッズ1,2,3を理解する上で重要なコンセプトだ。内部貨幣は、「負債の形で民間機関によって発行された貨幣であり、通常、要求払預金またはその他の預金の形を取っており、貨幣供給の一部である。預金者の資産であり銀行の負債と一致するお金は、内部貨幣になる」である(ウィキペディア)。これを上の通貨制度に当てはめると、銀行券は日本銀行にとっては負債、民間銀行の預金あるいは預金引き出しになるので民間としては資産になる。現在の銀行券は現物資産の裏付けがないので、日本経済全体では銀行券の資産価値はゼロになる。現在の(ブレトン・ウッズ2)の銀行券は内部貨幣である。

 

ブレトン・ウッズ3では銀行券は金あるいは現物資産の裏付けがあり、銀行券はこれらと交換可能になる。そうすると銀行券に資産価値があることになる。金あるいは現物資産の裏付けのある通貨は外部貨幣にあたる。ブレトン・ウッズ3下での銀行券は外部貨幣である。

 

まとめると内部貨幣は流通している経済全体での資産価値はゼロだが、外部貨幣は現物資産裏付け分の資産価値がある。

 

参考資料

「中央銀行と通貨発行を巡る法制度についての研究会」報告書